第304話 潜入作戦会議
文字数 1,851文字
ミルキー城に潜入するという前日。
僕らは作戦会議に呼ばれた。
作戦はすでにワレスさんたちが練りこんでいた。僕らはその概要を聞いただけだ。
それによると、こうだ。
まず、行方不明のらんらん姫をつれてきてくれた者には褒美を出すという、ブラン王のおふれが出ている。
それを建前にして、らんらん姫を保護したため、近衛騎士長の一隊がミルキー城へ送り届けにきたという体裁をとる。
そのため、蘭さんとワレスさんたちはボイクド城の兵士に守られて、ミルキー城に正面から乗りこむ。
ブラン王に謁見し、ブラン王が悪のヤドリギに取り憑かれているのかどうか真偽をたしかめる。ワレスさんのミラーアイズの能力で、これはひとめで判別できるようだ。
その間に、別動隊として、僕らとクルウの隊が、それぞれ城下町やお城のなかを探索し、悪のヤドリギ本体を探す、という作戦だ。
もちろん、謁見したとたんにブラン王に憑依したヤドリギが本性を現す可能性もある。だからこそ、蘭さんを守るためにワレスさんがついていくわけだ。
ワレスさんが三人ほど厳選して精鋭騎士をつれていってくれるそうだが、こっちも蘭さんだけにしておけないんで、スズランと三村くんとバラン、クマりん、モリーがついていくことになった。
アンドーくんの隠れ身や忍び足は潜入調査に必須とも言える技だから、おのずと別動隊になる。
僕はアンドーくんとともに別動隊のリーダーとして、残りのモンスターたちをつれていく。ぽよちゃん、たまりん、ケロちゃん、シルバンだ。戦えるわけじゃないけど、一人で留守番もさせておけなかったんで、ふえ子もいる。
癖の強い戦いかたをするメンバーばっかりだなぁ。
「ミルキー城の地下には隠し通路があって、古い時代の地下牢と洞くつがまざりあった迷路になってるという言い伝えがあります。兄上がウワサの鏡を置いてるのも地下だし、地下に何かあるのかもしれません」と、蘭さんが説明した。
「じゃあ、僕ら別動隊は地下迷路を探索してみるよ」
ワレスさんはうなずいて告げた。
「それぞれに何が起こるかわからない。全滅をさけるために、連絡を密にとる必要がある」
連絡を密にかぁ。スマホが人数ぶんあればなぁ——って、電波が通ってないか。
そう思ってたら、ワレスさんは言った。
「大賢者の職業につけば、遠くにいる特定の相手と言葉をかわす心話という職業スキルをおぼえるが、このなかで誰かそのスキルを持っている者は?」
スズランが手をあげる。
「大賢者はまだマスターしておりませんが、心話は得意技の祈りのなかの一つとして使えます」
あっ、そうか。
それでスズラン、モンスターの言葉がわかるのか。
ワレスさんは考えこむ。
「おれと勇者は待機部屋を別々にされるなどして、引き離される恐れもある。そのときに連絡をとりあえるな。スズラン。おまえはどんなことがあってもロランのそばを離れるな」
「はい。わかりました」
僕らはどうしたらいいのかなぁ?
心でなんて話せないよぉ。
たまに兄ちゃんとはシンクロするけどね。兄ちゃん、元気にしてるかなぁ?
「そうか。では、かーくんたちには、こっちからついていける魔法使いを選出しておこう」
と言われてたのに、その夜のことだ。
銀行から呼びだしがかかったんで、何事かと思えば、三つの黒い箱を渡された。三十センチ四方くらいの金庫に似てる。
「先日はプレゼントが切れておりまして失礼いたしました。かわりと言ってはなんですが、みなさまの創世の剣の代用品としまして、急きょ開発しました、こちらをさしあげます。これは預かり所ボックスという便利なアイテムでございます。冒険中、ダンジョンのなかからでも、預かり所の登録番号棚へ自由に出し入れできるという優れものでございます。転移魔法で預かり所の棚につながっておりまして」
蘭さん、スズラン、アンドーくんに一つずつ渡される。
「ねえ、かーくん。これがあれば、手紙を出し入れして、離れていても、いつでもメンバー間で情報をやりとりできるんじゃないの?」
「そうだね。情報だけじゃなく、アイテムも受け渡しできるね。攻略に必要なアイテムを手に入れたときに、それが必要なパーティーが遠くにいた場合とか、きっと役立つよ」
たとえば、屋上で今すぐ必要なアイテムを、地下で別の隊が見つけたときとかね。
というわけで、スズランのボックスはクルウに預けられた。
クルウは紳士だから、なかの無関係な僕らの私物を盗んだりはしないだろうし。
これで、すべてにおいて、ぬかりはないぞ。