第366話 そのころの蘭さんパート2
文字数 1,490文字
そのころの蘭さん。
今度は鏡で見えたわけじゃないよ?
ちょっと違う視点から見てみたいなぁって、僕の想像で書いた。
なので、ここから、蘭さん視点。
宴のために大広間にやってきたロランは、そこにワレス騎士長の姿がないことに気づいた。
バカにされて最初は嫌っていたものの、やはり、こんな状況で彼がいないのは不安になる。
もしも何か事件が起きた場合、自分の力だけで切りぬけることができるだろうか?
ロランの不安を察したのか、そっと指にふれてくる者があった。クマりんだ。ロランは微笑んで、クマりんの手をにぎった。
大広間には巨大な長卓が置かれ、宴のために花が飾られ、ごちそうもならんでいた。が、まだ、兄は来ていない。
兄は毎夜、鏡を見るために地下へ行くと言うが、そのせいだろうか?
兄と言っても、兄弟らしいことは何一つしたことがなかった。
そもそも、ロランは自分を一人っ子なのだと思っていた。
兄がいると知ったのは、ロランが正式に社交界にデビューした十二さいの誕生日だ。
遠くのほうからロランを見つめる青白い顔の少年がそれだった。ロランをさける仕草から、嫌われているのだと知った。
ロランは周囲の大人にはとても愛されたけれど、同年代の少年と遊んだことは、ほとんどなかった。父や母が子どもと会わせてくれなかった。
だから、兄の反応を見てガッカリした。
その前夜、自分に兄がいると初めて知って、とても喜んだのだけれど。きびすを返して去っていく兄を見て、仲よくできるかなとか、いっしょに遊びたいと期待したことは、胸の内にしまいこんで抑えつけた。
ロランはひじょうに誇り高い子どもだったから、自分が嫌われたかもしれないなんて、認めることはできなかった。
いいよ。僕には父上や母上がいるし、乳母や、侍女のアメリアもいるし、子犬や子猫も飼ってるし。
でも、心の奥底に秘めた思い出がある。
ロランがまだずっと小さな子どもだったとき、一度だけ同じ年ごろの子どもと遊んだことがあった。
相手は三つか四つ年上だっただろうか?
今では顔もよくおぼえてないが、一日中かけまわっても疲れたと言わない元気な遊び相手は生まれて初めてだった。とても楽しかった。
兄ともあんなふうに仲よくなれるのではないかと。
最初から期待なんてしなければよかったのだ。期待なんてするからツラくなる。
それからは両親の言うとおり、人とかかわろうとはせずに、静かにすごした。
豪華なお城の部屋のなかで、他人から隠されるように育った、孤独な少年時代。
お城のなかには秘密の場所がたくさんあったから、あちこち探検して遊んだ。それだけが楽しみだった。
そんなときには、幼いころに一度だけ遊んだ、あの友達のことをかすかに思いだす。彼といっしょに探検できたら、どんなに楽しいだろうと。
だけどもう、それらは過去のことだ。
今はかーくんやシャケやアンドーや、たくさんの友達ができた。
冒険は危険だし、ロランには成しとげなければならない重責もある。
それでも、旅は楽しい。
みんながいてくれるから……。
思いに沈んでいるところに、扉がひらいた。
兄が入ってくる。
しかし、ようすがおかしい。
両側にあきらかにモンスターとわかるお供をつれている。
「すまぬな。待たせた。さあ、晩さんにしようではないか」と、言いながら、兄は扉にカギをかけた。
「……兄上。なぜ、カギをかけるのですか? まだワレス騎士長が来ていませんよ?」
「やつは来ない。いや、来れないだろう。とても強力なやつを送りこんでおいたからな」
「……兄上?」
兄がふりかえり、邪悪な笑みをこちらに見せた。