第190話  山びこ戦!1

文字数 2,094文字

「行くぞ。キルミン」
「いいわよ。ダルト」

 なるほど。おじさんの名前はダルト、おばさんはキルミンか。てか、僕がこっそり、おばさん呼ばわりしてることを知ったら、キルミンさんはめちゃめちゃ怒りまくるだろう。そういうお年ごろだ。

「アンドーくん。僕らも近くでようす見てようか」
「そげだね。ほかの人の戦いかたを見て学ぶのも役に立つかもしれんね」

 僕らもゾロゾロと降りていく。
 ダルトさんとキルミンさんのあとを五メートルほど離れて追っていった。
 数人で近づいていっても、山びこはまったく微動だにしない。なんとなく恨みがましい目で、こっちを見るばかりだ。

 ダルトさんとキルミンさんは、それぞれの武器をぬいた。

 ダルトさんは仕込み杖。あれで魔法使いなのか、あの人。

 キルミンさんは——ん? 扇?
 扇なんて初めて見るぞ。
 そういえば、マーダー神殿で、基本職のなかに、詩人というのがあったっけ。歌と踊りでパーティーを補助する職業だった。きっと、キルミンさんは詩人だ。それか、詩人の上級職が踊り子とか。

 チャラララララララララ〜
 チャチャチャン、チャチャチャン、チャチャチャンチャン!

 あれ? なんで? 僕らのとこまで戦闘音楽が聞こえてくる。
 まさか、僕らもパーティーメンバーに入ってるわけじゃないよね?

 ダルトさんたちも気づいた。

「なんだ。小僧がついてきたのか。剣を持ってるってことは、いちおう戦士だな? しょうがない。今、パーティーが二人しかいないからな。おまえたちも力を貸せ。わしたちの足だけはひっぱるなよ? このAランクのわしらのジャマだけはな」

 へへへ。Aランクなんだ。
 僕なんかダブルAだもんね。

「戦士系がたりないみたいだから、僕とぽよちゃんで行ってくるよ」
「そうがいいね。行ってらっしゃい」

 魔法使いのアンドーくんと、僧侶のたまりんはその場に残る。いざってときは僕が回復魔法は使えるから、なんとかなるだろう。

 あらためて、バトル。
 テロップが出てきた。


 野生の山びこが現れた!




 山びこは動かない。
 申しわけない気がするんだけど、線路の上にいられたら困るのも事実だ。
 倒せなくてもいいんだけど、せめて、どいてもらわないとね。

 仮パーティーになったんで、ダルトさんとキルミンさんのステが見れる。
 二人ともレベルは25。
 でも、思ってたほど数値は高くない。装備品もこれはってほどののものじゃないし、正直、これで戦えるのか?
 職業は思ったとおり、キルミンさんは踊り子だ。
 ただ、ダルトさんを見て、僕はイヤな予感がした。遊び人なのだ。
 ほんとに大丈夫なんだよね?
 遊び人……遊ばないよね?

 とにかく……戦おうか。
 僕らのなかで一番速いのは、ぽよちゃん。

「ぽよちゃん。聞き耳してくれる?」
「キュイ」

 ピクピク〜
 戦場の癒し、ぽよちゃん。

 山びこのステータスはHPが9000。MPはゼロ。
 でも、なんだろう、これ?
 攻撃力は50しかないのに、防御力が500って? かったいなぁ。
 メタルキ〇グなみだよ?
 これ、クリティカル攻撃以外はきかないんじゃ?
 ってことは、僕のラッキー度頼みの通常攻撃と、ぽよちゃんには例のやつか。

 ちなみに行動パターンは“守る”と“山びこ”の二種類だ。
 種族的には精霊族になるらしい。

 僕はその事実を、ダルトさんとキルミンさんにも教えた。一時的なものではあるけど、パーティーなんで、情報は共有しとかないと。

「じゃあ、ぽよちゃんは、まず“はねる”で素早さをあげてから、“ためる”にしてくれる? アルテマハイテンションになったら攻撃してね?」
「キュイ!」

 ぽよちゃんは素直に、はねる。
 ピョコピョコ。ピョコピョンピョン。
 で、おめめをギュッ。
 二回行動しかしないな。
 素早さをあげても、そのターンでの行動回数は変わらないのか。

 次はキルミンさんだった。
「勝運のタンゴ!」

 叫んだあと、急に踊りだす。
 タンゴの曲がかかるから不思議だ。
 タンゴって本来はペアダンスのはずだけど、一人用にアレンジされてるみたいだ。
 なんの効果があるのかなと思ってたら、力の湧きあがってくる感じがした。これは、蘭さんの「みんな、がんばろ〜」と同じ効果だな。

 次は——と、僕か?
 ダルトさんは腕組みして立ってる。
 遊び人がターンのトリか。ちょっと心配。

 でも、しょうがないんで、僕は精霊王のレプリカ剣をふりあげ、すわりこんだ山びこのすねを打った。ガッチンと固い音がする。ボウッと炎も燃えあがり、合計でHPは150もけずれた。とくに魔法が効いてる。

 でも、山びこは無表情なんだよなぁ。
 無表情というか、物悲しいような目で僕を見るんだ。うう……そんな目で見ないで。

 ふと、僕は山びこの三角に折った両足のあいだを見た。山がたになった足が作る空間に、何か隠れてる。
 なんだろう? アレ? もしかして、山びこはアレを守ってるのかな?

 そんなことを考えてたら、背後からおじさんのわめき声が響いた。

「賭けてみる〜?」

 えッ? それって、たしか、敵か味方のどっちかが必ず全滅するっていう……?

 僕は意識が遠のいていくのを感じた。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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