第378話 イケノくん戦!5

文字数 1,733文字



 ドアをあけても、はみだしそうな肉で前が見えない。
 みんなは?
 みんなは、どうなったんだ?
 まさか、押しつぶされて全滅……?

 でも、まだ頭上で戦闘音楽がかかってる。
 終わりじゃない?
 まだ終わりじゃないのか?

 このはみだした肉にむかって総額なげすれば、まにあうかな?
 今のコイツのHP、いくつなんだ?
 二十億ダメージで足りるかな?
 ワレスさんの言うとおり、戦闘開始直後に戻ったほうが確実ではあるけど……。

 僕がここまで帰ったことをなかの人たちに伝えることができれば……。

 素早さはマックスまで上がってる。
 試しに一、二回、剣をふるった。
 でも、ぷるん、ぷるんと肉がふるえるだけで、あんまりダメージを与えられた感じがしない。
 それどころか、見ているうちにも、肉がろうかに、はみだしてくる。

 どうしよう。
 こうしてるうちにも刻一刻と、とりかえしつかないことになってくる。

 そのとき、ダディロンさんが僕の袖をひっぱった。

「おい。あれ、さまよえる魔術師じゃないか? 炎の洞くつにいたモンスターだ」

 ん? ふりかえると、赤いフードつきのマントをはおったモンスターが、こっちに向かって走ってくる!
 えっ? なんで? あの魔法使いのモンスターは、お城の壁のなかのぬけ道には出てこなかったはずなのに。

 すると、赤いマントをかぶったガイコツのモンスターが叫んだ。

「かーくん! ぼーっとしてるな。やるぞ!」

 なんでモンスターが僕の名前を知ってるんだ?
 目前まで走りよってきた、さまよえる魔術師のフードの下はガイコツ……いや、ガイコツじゃない!

「兄ちゃん!」
「やるぞ。かーくん。ここはあの技しかない」
「どの技?」
「おれたち兄弟しか使えない技だよ」
「えーと、僕の技は、小銭拾いと小説を書くと、つまみ食い……」
「そう。それだ!」
「えっ? つまみ食い?」
「ヤツの増殖を抑えるんだ」
「ええー? でも、つまみ食いじゃ、戦闘中三回までしか使えないんだけど?」
「おれは回数制限なしで使えるぞ? かーくんのつまみ食い、まだランクマックスになってないのか?」
「僕まだランク2だよ」
「ダメなヤツだなぁ。せめてランク3にならなきゃ」
「えっ? そうなの?」
「兄ちゃんのステータスを見てみろ」

 言われたとおり見てみた。

 つまみ食い(ランク5)
 敵モンスターから任意の項目のステータスを最大値の5分の1吸いとる。吸いとった数値は戦闘終了後も減らない。
 一戦闘で何回でも使用可能。
 ボスにも有効。

 なッ?
 最大値の五分の一?
 しかも任意?
 ボスにも有効で、何回でも使える?
 つまり、相手の数値がカラカラすっからかんになるまで吸いつくすことができるってことか?

 化け物だー!
 みなさーん! ここに化け物がいますよぉー!

「ランク3はランダム項目の数値を10〜30、回数制限なく吸えるんだ。ランク4でランダム項目の最大値10分の1を。相手の数値が30以下なら、すべてを。とっくにランク5になってるかと思ったのに」
「二分待って。ランク上げるから!」
「ふうん? じゃあ、兄ちゃんは、さきに“つまみ食い”してるからな」

 猛が(はし)を持つ手つきでパクパクかきこむ仕草をする。エアパクパクだ。
 そのとたん、目に見えて、目の前の肉がガッサリ減った。
 五分の一だもんね。
 一口で数千ずつとかの数値を吸いとってるわけだ。
 猛の大食らいは、こんなとこで役立った。

 僕はミャーコに頼んでスマホを出してもらった。
 さあ、書くぞ。
 僕のステータス。
 得意技の部分を書きなおす。
 ありがたいことに、レッドドラゴン戦で使用したせいか、つまみ食いのランクは3に上がっていた。
 でも、どうせなら、ランク5のほうがいい。ひひひ。

 得意技
 つまみ食い(ランク5)
 と打ちこもうとしたけど、できなかった。やっぱり、いきなり2ランクも上げることはできないのか。
 じゃあ、しょうがないな。
 あらためて打ちなおす。

 得意技
 つまみ食い(ランク4)
 敵モンスターからランダムな項目のステータスを最大値の10分の1吸いとる。吸いとった数値は戦闘終了後も減らない。
 一戦闘で何度でも使用可能。
 ボスにも有効。

 よし! これは打ちこめた。
 やるぞ。僕も。
 つまみ食いランク4だー!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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