第9話 あの男、登場!

文字数 1,596文字



「あっ、かーくんさん……」
「助けてェー。蘭さん」
「僕の名前は、らんらんです」
「今そこ? 今この状態で、そこなのッ?」

 泣き叫ぶ僕の目の前まで、巨大なイモムシの口が……口が……食われるのも嫌だけど、気持ち悪いのもイヤッ!

 と、そのときだ。

 ヒュヒュヒュンと、どこかから風を切る音が響き、いきなり、キャタッピの頭をゴッツンと何かが殴打していった。ブーメランだ。
 キャタッピは「ギャンッ!」と鳴いて、地面に倒れふす。目をまわした。
 ついでに、戻ってきたブーメランが僕のまわりの糸をプチプチとちぎってくれた。

「た、助かった……」

 勝利の音楽が鳴りわたり、バトルは終了した。いちおう勝ったようだ。経験値10と5円を獲得とテロップが流れる。
 5円……あいかわらず、やっすいな。これなら得意技で拾える小銭と大差ない。命がけで5円って、僕の命は5円の価値か?

 あっ、それどころじゃないぞ。
 あのブーメランの持ちぬしは?

 僕がキョロキョロあたりを見まわすと、その人物はやってきた。
 この世界がいろんなゲームのパロディなことは、すでにわかっていた。それにしても、その男の服装はかなりヤバイくらい、猫を奪っていきそうな名前のゲーム主人公のカッコに激似だった。
 しかも、見なれた顔パート2だ。

「……三村くん?」

 それは兄や蘭さんと共通の僕らの大阪の友人だ。見ためはチンピラっぽいけど、根は人情家。

「ん? おれか? おれは通りすがりの旅の商人や。自分、危なかったな。そない軽装で外ほっつき歩いたら、あかんで」

 うん。それは、もちろん、おっしゃるとおりなんだよ。僕だって、ウロつきたくてウロついてるわけじゃない。

「えーと、とにかく、ありがとう」
「困ったときはおたがいさまや。自分ら、シルキー城まで行くんか?」
「何そのファンシーな名前のお城」

 すると、蘭さんが説明してくれた。
「これから僕らが行く城ですよ」
「あっ、そうなんだ。ちなみに、さっきまでいた街は?」
「ミルキー城とその城下町です」

 ますます、ファンシー。

「シルキー城かいな。ほなら、目的地いっしょやな。同行しょうや」
「うん。まあ、いいけど。僕は、かーくん」
「僕は、らんらん」

 そして、三村くんは言った。
「おれ、シャケや。よろしゅうな!」

 シャケ!
 それでいいのか、ネーミング……。


 *

 シャケ……僕がその名前をつけられたら、一生、親を恨むけど、三村くんは平気な顔だ。じゃっかんのドヤ顔ですらある。
 まあ、三村くん、現実世界でも意味合い的には“シャケ”って名前つけられてるもんな。

 かわいちょう……。
 シャケ、かわいちょう。

 という僕の心の声が聞こえたかどうかはわからないが、くるりと三村くんがふりかえる。

「かーくん。金、どないするんや? いらんのかいな?」
「えっ? お金はいるよ」
「なら、とりに行きぃや」
「えっ?」

 三村くんが指さすのは、クルクル渦巻き状に目をまわしたキャタッピだ。
 うっ、これを、どうしろと?

「まだ、五円、回収してないやろ?」
「あっ、うん。そうだった」
「とりに行きぃや」

 そう言って、三村くんはキャタッピの口を示す。
 えっ? だからその口をどうしろと?
 ま、まさか、そのなかへ入れって言ってないよね?

「えっと……」
「早よせな、キャタッピ起きてまうで?」

 だからって、口のなかに入っていけない……。

「ほら。早よ、早よ」
「い、いや。今回は僕、いいよ。助けてもらったし、この戦闘の報酬は三村くんのものだと思うな」
「ええんか? ほな、貰うで?」
「うん!」

 むしろ貰ってくれ!

「ほんまか。ありがとな」

 シャケ三村くんはキャタッピの口のなかへと旅立っていった……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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