第26話 勇者の力

文字数 1,582文字



「と、とりあえず、メラりん。倒そうか?」
「いいですけど、僕の使える魔法って、火属性なんですよね。メラりんと同じ属性だから、効果が半減するし」と、蘭さん。

「火属性ってことは、水属性の魔法が効くのかな?」
「そうですね」
「シャケは魔法使えないの?」
「おれはまだ、『鑑定(かんてい)』と『呪いよ、消えされ〜』しか魔法は使えへんな。あっ、あと、遊び人のころにおぼえた『賭けてみる?』とか」
「何そのギャンブル要素高そうな魔法」
「敵か自分たちのどっちかが、必ず全滅する」
「やだよ! そんな怖い魔法」
「だから使てへんやんかぁ。あと『何が出るかなぁ?』もある」
「それは、何?」
「何が起こるかわかれへんという、遊び人究極の技や」

 ああ、パルプ〇テ的なやつ……。

「……使えないやつ」

 僕が言ったんじゃない。蘭さんだ。
 今、蘭さんがボソッと勇者にあるまじき毒を吐いた。

 ゲハッと、三村くんが血を吐く(ような声を出した)。

「やめぇや。その白い目。痛いわぁ。刺さるわぁ」

 うん。わかる。わかる。
 蘭さんの冷たい視線、こたえるよね。

 そのとき、僕はひらめいた。

「それだ! 冷たい視線って、蘭さんの得意技だよね? 思いっきり冷たい目でメラりんをにらんでやって」
「こう?」

 あっ……い、痛い。
 自分にそそがれたんじゃないとわかってても痛い視線。

 みるみる、メラりんの顔色(体色)が青ざめ、炎が小さくなっていく。なんか、しょんぼりして、見るも哀れ。

「今だよ。蘭さん! 攻撃して」
「こうですね」

 ドラゴンテイルが華麗に舞う。
 風を切り、ピシッとメラりん直撃。
 クリティカルだぁー!

 これが勇者の力か。
 さすがだな。
 決して正統派とは言えない気がするけど……。


 *

 戦闘に勝った。
 僕らはワレスさんのマネをして、気絶してるスライムやぽよぽよのお腹を、人工呼吸よろしく両手でマッサージした。ワレスさんは蹴ってたけどね。僕はそこまで非情になれない。

 すると、モンスターの口から、ぷっと小銭が吐きだされてくる。きっちり勝利報酬ぶんだ。なるほど。最初から、こうすればよかったのか。

 あいかわらずモンスターから得られるのは一体につき一円単位だ。メラりんにいたっては、体内に隠すところがないせいか、勝利報酬がゼロ円設定だった。ひどい。

「うーん。僕の小銭拾いのほうが、ぜんぜん儲かる」
「かーくん。儲かりすぎやで。ズルイわぁ。装備、買いかえへんか?」
「えーと……何があるの?」
「鉄の剣があんで」
「いくら?」
「千二百円」
「もっといいのないの?」
「うーん……あるにはあるけど、あれは家宝にしょうかと思って、自分用に買うたやつなんやなぁ」
「物は何?」
破魔(はま)の剣や」

 何その、思いっきり“破邪(はじゃ)〇剣”のパロディっぽい名前の剣。

「……もしかして、その剣に魔法効果ついてたりする?」
「あるで。剣をふりかざすだけで、炎の魔法が何回でも使える」
「はい。買いましょう。いくら?」
「ええっ。家宝にしょうかと思っててんけどなぁ」
「そこをなんとか」
「ほなら、割高やけどいいか?」
「いくら?」
「八千円」

 ……ぼるな。
 たしか、僕の記憶が定かだとしたら、破〇の剣は五千円以内だったはずだ。あっ、円じゃないけど。
 あのゲームの4で、今、三村くんがコスプレしてるキャラクターに何回も村を往復させて、売価と買値の差額を利用してお金をためた。

 まあいい。ふふふ。今の僕は序盤では考えられない額の銭を持っている。へへへ。ふひひ。八千円なんか、チョロイ。チョロイ。

「いいよ。買う」

 僕は招き猫の財布から八千円をとりだした。
 いいねぇ。ちょっとした億万長者気分。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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