第179話 南の平原
文字数 1,127文字
滝への道すじは、前もって長老から聞いていた。
南の平原をまっすぐつっきっていくと、やがて大河に行きつく。その川ぞいに下流へ向かうと、巨大な滝が、ごうごうと音を立てて流れているという。
「滝に飛びこむのかぁ。生きて帰れるかなぁ?」
「そこは、なんとかなぁと信じるしかないだない?」
「まあ、そうなんだけど」
ノーム村をかこむ森をぬけると、たしかに平原になっていた。野の花が何種類も群れ咲いていて、心がなごむ。高原の春って感じ。ぽよちゃんが幸せそうに白い花をむしゃむしゃした。遠くのほうでもウサギが遊んでる。
あれ?
「あのウサギ、大きいよね……平原のバケモノかな?」
「バケモノっていうには、こまいがね」
「んーと、ぽよちゃんくらい」
「うん。ぽよちゃん……」
野生の黒ぽよが現れた!
野生の茶ぽよが現れた!
ああー! モンスターだった。
ぽよぽよかぁー。
ぽよぽよって始まりの街付近以外にもいるんだ。
僕らは戦闘態勢に入る。
でも、なんだろう。
黒いぽよぽよと茶色いぽよぽよが、とつぜん、あちこちに跳ねだした。
ピョコピョコピョコピョコ。ピョココピョコ。
せわしないなぁ。
「ぽよちゃん。聞き耳してくれる?」
「……キュイ」
ハッ! ぽよちゃんが仲間を見る目で、ぽよぽよたちを見てる。そうだよね。ぽよちゃんにとっては仲間だよね。
ああッ! ぽよちゃんが跳ねた。
急にピョコピョコしだしたぞ。
黒ぽよたちのマネしてるのか?
どどど、どうしよう。このまま、ぽよちゃんが野生に帰ってしまったら……?
「キュイ!」
「キュキュキュ」
「キュイ、キュイ!」
何やら鳴きさわぐ三匹。
そうかぁ。ぽよちゃん語もわかってなかったかぁ。会話してるふうだけど理解できない。
「キュキュキュイ、キュイ?」
「キュキュウ……」
「キュウ……」
チャチャチャン、チャチャチャン、チャチャチャンチャ……。
ん? 戦闘音楽が消えた?
野生の黒ぽよは逃げだした。
野生の茶ぽよは逃げだした。
ぽよちゃんが、はねるを使えるようになった!
うーん。何が起こったのか?
なぜか戦わなくてよくなったぞ。
見送るぽよちゃんの誇らしそうな顔。
やっぱり、あのピョコピョコが関係してるのか?
「なんだったんだろう……?」
「ぽよぽよは、もともと群れで暮らすモンスターだけん、ケンカをさけるためのルールみたいなもんがあるだない? 野生動物がツノや体の大きさでマウントとったり、踊りや鳴き声で優劣つけるようなもんでしょう」
「そげか」
ハッ! 今、ぼ、僕、出雲弁しゃべってた。このままでは僕もいつか、アンドーくんに! あな、恐ろしや……。
「じゃあ、ぽよちゃんがナワバリ争いに勝ったってことか」
「ピュイ〜」
僕らは平原を進んでいくのだった。