第183話  滝をめざして

文字数 1,995文字


 平原を歩いていくと、やっと川に行きあたった。
 これで迷わずに滝まで行けるぞ。
 川ぞいにお花畑をくだる。
 ずいぶん歩いた気がしたけど、そろそろじゃないのかなと考えていると、どこからか変な音が聞こえてきた。変なというか、お腹の底に響くような……あれは、水音か?

「あッ、滝だ。滝が近いんだね」
「ああ……滝かぁ。ついに来たかね。どげすう?」

 いちまつの不安をいだきつつ、その場所についた。
 水量の増していく川が、とつぜん見えなくなったと思うと、そのさきが崖になっている。

「あれ? 今、ここに人影あったよね?」
「えっ? そげだった?」

 アンドーくんは気がつかなかったみたいだ。それとも、僕が夢でも見てたのか? いや、夢だけどってツッコミはもう飽きた。
 なんかなぁ。さっき、ここに猛が立ってたような気がするんだよね。
 あの黒いフードつきのマント着た、背の高い男……。
 猛だったのかなぁ?
 猛が裏切りのユダだって、ほんとかなぁ?
 気になりすぎて幻でも見たかなぁ?

 気をとりなおして、あらためて滝をながめる。地面に這いつくばって、恐る恐る崖下をながめると、想像を超えるものすごい高さだ。滝つぼが見えない。滝の下方は大量にまきあがる水しぶきによって、かすんでいた。雲海のなかに急流が飲みこまれていく。

「うわぁ……確実に死ぬよね?」
「う、うん。死ぬね」
「行くしかないんだよね?」
「それか一生、ノームの村で暮らすがいいか」
「うーん。それも、ちょっと……」

 ノームの村でのんびりスローライフしたいけどねぇ。世界の平和を考えると、そうも言ってられないだろう。
 じゃあ、結論。
 とびこむしかない……。

「とびこむ?」
「ほかにいい方法がああかね?」
「ない……ね」

 たまりんが、ゆらゆらしてる。

「たまりんは浮かんでるから、飛んでおりることができるよね?」

 ゆらゆら、ゆら〜り。

「だよね。ぽよちゃんを抱っこしていくことできる?」

 ゆ……ゆらり?

「あっ、ぽよちゃんはムリなのか。じゃあ、クピピコは?」

 ゆらり! ゆらり!

「クピピコは大丈夫なんだね? じゃあ、お願い。クピピコもいっしょにつれていって」

 ゆら〜り。

 これでなんとか、たまりんとクピピコだけは無事に下まで行ける。
 残るは、僕らだ。
 三村くんなら得意技が水泳だったから、もしかしたら泳いでいけたのかもしれないけど、僕にはそんな得意技はない。あるのは小銭拾いと小説を書くと、つまみ食いだ。
 僕は断言する。
 今この場面で役立つ技は何ひとつないと!

「……僕が好きだったロープレでね」
「ロープレってなんだかいね?」
「あ、うん。そこは聞き流して」
「うん」
「塔の最上階でさ。すぐそこに欲しいものが見えてるのに、途中で橋が切れてるところがあったんだ。だけど、信じてふみだすと、そこには見えない橋が続いていた——ここも、それなんだと思う?」
「さあ……」

 ふみだすべきか、ふみださざるべきか?
 なかなかの究極の選択だよね。




「じゃあ、行くよ?」
「……ほんに行くで?」
「い、行こうよ」
「キュイ……」
「ぽよちゃんは僕が抱っこするから!」
「キュイ!」

 僕らは千尋(せんじん)の谷へと怒涛(どとう)のごとく流れこむ白滝へと、身をなげだした。
 きっと、なんとかなる!
 今までだって、なんとかなったんだから。
 それがゲーム上必要不可欠なストーリー進行なら、嘘のような奇跡が起こるもんだ——と、信じて。

 楽天家による集団自殺のつどいと化したナイアガラ強行突破作戦!

 ずいぶん長いこと風を切ってる気がするけど、いつまでたっても着水しない。顔にかかるしぶきを感じながら、さすがにこのままじゃ、ほんとに死んじゃうんじゃないか、と僕は不安にさいなまれた。

 死ぬ? 死ぬよね?
 この高さから水面に叩きつけられたら、衝撃で首の骨折るよね? てか、全身骨折? 内臓破裂?
 んん……やっぱりやめとけばよかったかな。まだ死にたくないな……。

 水しぶきのあげる雲のなかに突入した。このさきは上からも見えなかった。どうなってるんだろう? 滝つぼがすごい岩場だったりしたらイヤだなぁ……。

 早く奇跡が起こってくれないと、なんかさっきから失神しそうなんだけど。
 うーん、この落下感。
 苦手だぁ。

 ——と、背後からチッと舌打ちが聞こえた。

 なんだ? 今の。幻聴か?
 ごうごうって滝の音のせいで聞きとりにくいけど、何かがこっちに迫ってるような?
 ビュービューと風がうなる。
 僕の体の落下速度が重力を受けて早まってるだけなのかな?
 んん? やっぱり違う。
 僕以外の何かが風を切る音だ。

 すると、とつぜん、誰かが僕をつかんだ。
 僕がチラリとそっちを見ると、難しい顔をした猛だった。この前のときと同じ黒いマントを着てる。

 ああ、猛だー。兄ちゃんが助けにきてくれたんだー。
 でも、じゃあ、アレはなんなんだろ?
 猛の背中に生えた、コウモリみたいな黒い羽は?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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