第295話 適性ってあるんだね

文字数 1,417文字



 スズランが悲しげな顔で告げた。

「お兄様は遊び人と商人の適性を持っていないみたいですね。でも、武闘家と詩人にはなれます。僧侶もいけますね」

 うーん。そういえば、クルウが言ってたっけ。魔法使いの才能がないので、なれない職業が多かった——と。

「そうか。職業適性って個人差があるんだもんね。たしかにロランは遊び人とか、商人ってイメージじゃない」
「そんな……それじゃ僕には後衛援護スキルはおぼえられないってことですか?」

 ふへへ。こんなときのためのツボだもんねぇ。いいなぁ。チートは適性をも超える!

「はい。ロラン。これを使って」
「あっ、盗賊のツボですね!」
「うん。六個も貰ったからね。ぽよちゃんに一個使ったけど、ロランにこれをあげても、まだ四個ある」
「ありがとう! かーくん」
「みんな、ありがとうは後衛から使えると強力だからねぇ」

 蘭さんは無事に盗賊になった。
 が、直後にアンドーくんがつぶやく。

「……かーくん。わも商人になれんみたい」
「えっ? そうなの?」
「遊び人はなれぇけど、商人になれん」
「しょうがないなぁ。はい。盗賊のツボ」
「だんだん。ありがとう」

 そうか。意外と商人ってなれないんだね。今にして思えば、僕は幼少期からお金の計算が大好きだった。
 小銭拾いはお金への愛のなせる技なのかもしれない。

「パーティーが盗賊だらけになっちゃったねぇ」
「シャケは以前、商人でしたよね? その前は遊び人だったって言ったし、盗賊になれます」

 蘭さんに言われて気づいた。

「そうだね。商人のあと戦士になってもらったし」
「あっ、戦士はもうマスターしたので、旅の途中で武闘家になっています」
「じゃあ、盗賊をマスターしたら、僧侶でも魔法使いでも、どっちかになれば弓使いに転職できるね」
「シャケは前衛向きだけど、もしものときのために後衛スキルもあったら役立つかもしれません」
「シャケ、どうしてるかな?」
「あとで、ようすを見に行きましょうか。シャケも職業ランク上げてもらわないといけないし」
「そうだね」

 職業経験値は馬車の外で戦わないと得られないようだ。今日のところ、モンスターたちは誰も職業をマスターしてなかった。

「このトンネルのなかのモンスターは強くないから、明日はパーティーを二手にわけましょうか。そうしたら、みんながまんべんなく鍛えられる」
「そうだね」

 そのためにも馬車の容量を増やしたかったんだけどなぁ。
 言ってもしかたないので、僕らはキリのいいところで王都に帰った。
 鍛冶屋の受付のある裏口に馬車をまわす。

 昨日のザッフっていうおじいさんが、カウンターのとこに座ってた。

「ザッフさん。馬車改造の件なんですけど、ほろ布が——」
「おお、おお。これだ。これだ。よく手に入ったなぁ。ウールリカと交易がとだえたと聞いたんだが」

 おじいさん、ボケたかな?
 何を見て、「これだ、これだ」なんだ?

 僕はザッフさんの視線を追った。
 ザッフさんは僕の胸あたりを見ている。
 僕のよろいはオリハルコンなんだけど?
 いや、違うぞ。
 ザッフさんが見てるのは、僕がダッコしてる、ぽよちゃんだ。ぽよちゃんの背中あたり。
 ぽよちゃんの背中にあるものと言えば?

「えっと……?」

 僕がソレを指さすと、ザッフさんはうなずいた。
 なんと!

「えっ? この猫型リュックですか?」
「そうじゃよ。それが魔法の布だ」

 ええーッ?
 ノーム村の南の平原で走りまわっていた猫のリュック。
 こ、これが魔法のほろ布?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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