第372話 クズのなかのクズ

文字数 1,208文字



 長い洞くつをいっしょに切りぬけて、レッドドラゴンのときには助けてもくれた。
 もとの友達に戻ってくれたんだと信じかけてたんだけど。

「セイヤ……なに言っちょうで? もとに戻っただなかったか?」

 アンドーくんの問いかけにも、皮肉に笑うばかりだ。

「一度、取り憑いた者を、そう簡単に手放すと思うか? 愚か者めが。友達ごっこは楽しかったとも。なぁ、勇者ども」

 ん? なんか僕に話しかけてる?
 変だなぁー。
 勇者は蘭さんなんだけど。ま、いっか。

 みんなの目が、「コイツ何を勘違いしてるんだ? バカじゃないのか?」って言ってたんだと思う。
 ヤドリギはとうとつに怒り狂った。

「なんだ? おまえたちのその目はー! いいか? 私が本気になれば、おまえたちなど敵ではないのだぞ? 目にもの見せてくれます。ほほほ」

 そう言うと、ヤドリギのイケノくんは走った。
 む? えらそうなこと言って逃走するのか?

「待て! ヤドリギ! 逃がさないぞ」

 僕らはこわれた扉から逃亡をはかるヤドリギを追いかける。
 城内をあっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
 けど、ヤドリギは逃げるつもりじゃなかった。ヤツはヤツなりの戦いかたをしてただけだったのだ。
 ほんと、クズいなぁ。

 ヤドリギがかけこんだのは、最上階のすみにある扉。
 今回、お城のなかを見物してないんで、僕はそこがなんの部屋なのかわからなかったんだけど、蘭さんの顔色が青ざめるのはわかった。

「この部屋は……」
「どうしたの? 蘭さん」
「ここは……王族に不義や謀反などの問題行動のある者が出たときに入れておくための、専用の牢屋のようなものです。今は使われていないはずなんですが……」

 今度はワレスさんの顔つきが変わった。チッと小さく舌打ちをつく。舌打ちついても美男子はさまになりますね。

「ロラン。今ここで言っておく。シルキー城で、おれが助けに行ったとき、おまえの父上はまにあった。現在、王都から離れた小さな城で身分を隠して養生していただいている。だが、隣室の母上は……まにあわなかった。すでに魔物にさらわれたあとだった。言うとおまえの心が乱れると思い、話をはぐらかしてばかりいた。すまない」

 そうだったのか。
 ということは……イヤな予感がする。
 シルキー城を襲ったのは、猛(裏切りのユダ)の隊だ。
 でも、蘭さんのお母さんをさらったのは別の隊だったのかもしれない。
 それが、もし、ヤドリギの隊だったなら……?

 イヤな予感は、たいてい当たる。
 扉をあけると、イケノくんをのっとったヤドリギが真正面に立っていた。
 一人ではない。
 蘭さんによく似た、とても美しい女性を小脇にかかえていた。女の人は意識がない。魔法で眠らされているのかもしれない。

「母上!」

 ああ、やっぱりね。
 蘭さんのお母さんだったか。

「ひひひ。それ以上、近づくと、この女の命がないぞ?」

 むーん。
 この外道がぁー!

 どうする?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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