第7話 これは小銭か?

文字数 1,232文字


 僕らはダンジョンを進んでいった。
 その後もスライムとの戦闘を順調に重ね、レベルも3になった。
 いいなぁ。回復役がいてくれるから、MPの心配なく、楽にレベル上げできる。

 たぶん、蘭さんは今のところイベント要員っていうか、仲間になるタイプのNPCだ。今のうちにガッツリレベルをあげさせてもらおう。
 じゃないと、そのうち一人で荒野に放置されてしまう。

 そもそも、ゲームって最初は一人で街の外をウロついて、ちょっとずつ強くなっていくものなのに、なんか妙にハイペースで難なく進む。
 夢だからかなぁ?
 ゲームバランス、大丈夫なんだろうか?
 心配になってくる。

 なるべく同じ場所を行ったり来たりしながら、くまなくダンジョンを歩きまわっていたときだ。

 僕は吸いよせられるように足元を見た。
 これは……この感覚は現実でも覚えがあるぞ。僕こそは小銭の声が聞こえる男。一円や五円や十円たちが、「かーくん。ここにいるよ。ひろってよぉ」と声をかけてくるのだ。
 いや、ほんと。たぶん、シックスセンスっぽい何かなのだと思う。
 決して妄想症のヤバイやつではない。

 誘われるままに視線を流すと、やっぱり! お金だぁ〜
 この小銭を拾うときの快感が、はたして万人に理解してもらえるだろうか?
 小銭が嬉しいんじゃない。
 小銭を拾うという、ちょっとラッキーなハプニングじたいが嬉しいのだ。
 小さな幸運を集めてるような感じ。

 さて、今日の小銭ちゃんは十円かなぁ? それとも五円? 黄色っぽいから一円、五十円、百円、五百円ではない。穴もあいてないし、十円か。

 なにげなく拾いあげた僕は、一瞬、目の前がグラグラするような感覚を味わった。


 *

 小銭を拾った瞬間、僕の意識は遠くなった。
 なんだか、夢のなかで夢を見ているような。

 グルグルまわる視界のなかで、これによく似たことが、つい最近あったような気がした。
 このゲームのような夢の世界のことではない。現実世界でだ。
 そのとき、僕はちょっと変わったコインのようなものを拾った……ような気がする。
 なんか、すごくキラキラ光る、キレイな星みたいな……。

 気がつくと、蘭さんが心配そうな顔で僕をのぞきこんでいた。
 僕はちょっとのあいだ、気を失っていたらしい。

「大丈夫ですか?」
「う、うん。なんか、このコインを拾ったとき、急に、ふわぁっとなったんだけど」

 蘭さんは僕の手のなかのコインをながめた。金色の小さなコインだ。なんか知らないけど、ものすごくキラキラ光る。まんなかに猫のマークが浮き彫りになっている。

「これは、小さなコインですね。ウワサでは、これをたくさん集めると、いいことがあるらしいですよ」

 キターッ!
 小さなメダルだ。いいぞ。メダル王バンザイ!

 いい世界だなぁ。
 忠実に僕の好きだったあのゲームをベースにしてる。

 僕はホクホクしながら、小さなコインを招き猫のガマグチのなかに入れた。
 チャリーンと嬉しい音がした。
 これをいっぱい集めたら、何が起こるんだろう?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み