第160話 ゴーレム戦! 1
文字数 1,826文字
体の大きさで言うと、ゴーレムのほうが所長より大きい。ゴーレムが五メートル。グレート所長が三メートルほど。
ぽよちゃんがパーティーにいないんで、ハッキリとはわからないけど、たぶん攻撃力もゴーレムのほうが強いんじゃないかと思う。
今のメンバーのなかで一番速いのは僕だ。
たのむよ。僕の幸運度。
あいかわらず、補助魔法は使えないんで、鋼鉄のブーメランをなげる!
カキン、カキンといい音がして、ゴーレムと所長にクリティカルが決まる。
二体ともあんまり素早くないんだな。よけることもなく、ゴーレムは胸、所長はこめかみにクリーンヒットした。
たまりんはハープをポロン。
ナッツは急に泣きだした。大泣きだ。
「うわ〜ん。早く大人になりた〜い」
やっぱり子どもに戦闘はムリだったかな?
と思ったが、なんかようすが変だ。
ナッツの数値が全体に前に見たときより高くなっているような?
うん。まちがいない。
三割増し強くなってる。
そういえば、さっきのセリフはナッツの使える呪文だ。
そうか。早く大人になりたいと願うことで、自分のステータスを水増しする魔法なのか。一回の使用にMPを15も使ってる。つまり、ナッツの今の全MPだ。一回かぎりのチート技なんだな。
これで、こっちの攻撃は終わりだ。
所長とゴーレムはどんな攻撃をしかけてくるのかな?
「ブヒヒ。さすがは勇者だな。なかなかやりおるわい」
ふーん。まだ僕のこと勇者だと思ってるんだ。ゴドバから伝達が行ってるんだな。
てか、ブタだと思われたくないなら、ブヒヒなんて言わなきゃいいのに。
「だがな。わが研究により生まれたゴーレムは、めっぽう強いのだ。きさまなど敵ではないのだぞよ。行けッ! ゴーレム! ヤツらを倒せ!」
テロップが流れた。
グレート研究所長は
わあッ! なんてヤツだ。
グレート所長。
自分では戦わないで、仲間を強くしていくのか。しかも、テンションと攻撃力が両方あがったよ。
やっかいだなぁ、もう。
ゴーレムの体が赤いオーラをおびている。テンションが上がってるときの色だ。
ゴーレムは両腕をそろえて、力いっぱいふりおろす。それじたいはノーコンなんだが、そのまま胴体がグルッと一回転して、腕をぶんまわしてきた!
わッ! イテテッ! ジャンプしてよけようとしたけど、よけきれなかった。直撃じゃなかったけど、足のさきをゴーレムのゲンコツがかすめて、床にぶっとばされる。HPを三分の一持っていかれた。
たまりんはスウっと消える羨ましい特技で、なんなくかわす。
ナッツは僕よりひどかった。
ものの見事にフルスイング腕バットのえじきになり、瀕死寸前だ。
やっぱりこのパーティーで戦闘なんてムリだったかな?
小学一年生にゴーレムと戦えだなんて厳しすぎる。虐待じゃないのか?
ぽよちゃんも蘭さんもいないのに、どうやって、まともに戦うというのか。
僕らのターンだ。
せめてゴーレムのHPがどのくらい残ってるのかわかればな。
さっきの僕のクリティカルが思いのほか効いてて、あと数回で倒れそうなら、たまりんの海鳴りのラプソディーが起こるまで、回復は待って、攻撃に集中するんだけど。
たまりん——そうだ。
たまりんは回復魔法が使える。
僕がナッツを、たまりんが僕を治せば、なんとかダメージはリセットできる。
でも、そのくりかえしじゃ敵は“檄をとばす”で、どんどん強くなるばかりだ。
この戦いには勝機が見えない。
ゴーレムを倒しても、グレート所長自身も、すごく強いかもだし、これほど希望のない戦いは初めてだ。
「……たまりん。今のターン、ナッツのHPを回復してくれる?」
ゆらり。
了解してくれたようだ。
僕は賭けに出た。
これでゴーレムが倒れてさえくれたら、僕らにも勝ちめはある。
僕は思いきり力をこめ、ブーメランを放った。ヒュヒュヒュっと風を切る音がする。
ゴーレムの胸、グレート所長のこめかみ。さっきと同じ場所に会心の一撃をお見舞いする!
よしッ! やったかな?
どうか倒れてくれ。
ゴーレムはよろめいた。
足がもつれる。
しかし——
その足はふたたび、しっかりと床をふみしめた。