第39話 だから王様、あんなに毒消し草くれたのか

文字数 1,584文字



 野生のキャタッピが現れた。
 野生の大ムカデが現れた。
 野生のスパイダーが現れた。


 テロップが流れる。
 さて、今日初のバトル。
 ミノタウルス戦を制覇(せいは)した僕らは、どのていどの戦闘をこなせるのかな?
 ふふふ。幸運度ほぼマックスにまで振りきった僕の威力を見てみよう。

 うん?

「あれ? 猛は戦わないの?」
「パーティーって四人ずつしか戦えないんだよ。それに、おれは今、NPCだし」
「あっ、そうなんだ」
「まあ、勝手に動くよ」
「ふうん」

 やっぱり、猛はまだ僕らのほんとの仲間じゃないんだな。らんらんだったころの蘭さんみたいなもんか。

 それにしても、さすがに森のなかだな。虫ばっかり! 虫、嫌いだっての。

 巨大イモムシ。
 巨大ムカデ。
 巨大グモだ。

 あいかわらず、素早さ一位の蘭さんが先制攻撃!
 ピシッ、ピシッとムチがうなると、キャタッピはあっけなく倒れた。
 残るはムカデとクモか。

「あっ、あかん。次からは最初にムカデかスパイダー倒さな。あいつら、毒持ってんで」

 三村くんが言いながらブーメランをなげた。ムカデとクモは声もなく、のけぞった。痛がってるようだ。
 しかし、倒れない。
 すぐに体勢を立てなおした。
 あのようすだと、HPは半分以上残っている。

 やんなるなぁ。
 破魔の剣の魔法は威力がそれほど大きくない。毒を持ってるとなると、早めに倒さないとやっかいだ。
 もし毒にかかると戦闘が終わってもHPが下がり続ける。

 しょうがないので、僕は目の前にぶらさがるスパイダーにむかって、破魔の剣をふった。
 すごいノーコンなんだけど、なぜかクモはユラユラ揺れて、みずから僕の剣に体当たりしてきた。
 これか。幸運度マックスの奇跡!
 よし。スパイダーは目をまわしたぞ。
 残るは大ムカデだけだ。


 *

 大ムカデが襲いくる!
 ギャー! やだ。見ためが、すでに怖い。ちっちゃいやつなら平気だよ? でも、こいつは天井を這ってるやつの百倍はあるんだー!

「ギャー。ギャー。来るなよ」

 僕が左手をつきだすと、あれ?
 皮の盾。ミノタウルス戦で壊れたんじゃなかったのか。戦闘終了すると自動修復するのか。ある意味、スゴイな。この技術を現実に持ちこめたら、僕は一生、特許で暮らしていける。

 大ムカデの牙は皮の表面をすべった。すると、大ムカデは急にターゲットを変え、三村くんに牙をむいた。

「うわーッ!」

 とつぜんの方向転換に意表をつかれて、三村くんは反撃できない。パクッと腕をかまれた。
 あッ……三村くんの顔が、みるみる紫色になっていく。
 ああ、毒にやられたな。

「三村くん、大丈夫?」
「あかんわぁ。HPけずられてくわぁ」
「三村くんは次のターンで毒消し草飲んで。持ってるよね?」
「まあ、自分のぶんくらいは」
「じゃあ、それ飲んで」
「了解や」

 次のターンだ。
 蘭さんは素早い。
 てか、ぽよちゃんのターンって、なかなかまわってこないよね? もしかして、すごくトロいのかな?

 ビシッ、ビシッとムチが乱打する。
 速い!
 蘭さん、今回はオマケにもう一回、ピシッとムチをふりかぶった。大ムカデはひっくりかえって、口をパクパクする。

 三村くんが急いで毒消し草を飲んでるあいだに、僕は仰向けで、やたらいっぱいある足をモゾモゾさせてるムカデの頭をポカリと叩いた。
 力の種のプラス5と、力の腕輪のプラス10が効いたのか、ムカデは泡をふいて動かなくなった。

 モンスターを倒した。
 ヒラリとスパイダーの巣から、ひっかかっていた毒消し草が落下してくる。

 なんとか勝てた。
 でも、このバトルは、これから始まる毒地獄の序章にすぎなかった。
 すぎなかったんだよぉ……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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