第18話 なんなんだ? 今夜はイベントだらけ

文字数 1,598文字



 ああ、もう、殺される!
 ワレスさんに殺されるのかぁ。
 悲しいなぁ。
 僕が生みの親だよって言ってみようかな?
 いや、ダメだ。よけい殺される!
 彼を徹底的に不幸な生い立ちにして喜んでたのは僕だ。喜んで……喜んでたのかな? ワレスさんは耽美が似合うんだよ。あっ、そんなこと言ってたら、まちがいなく抹殺される!

 と、そのときだ。
 なんか、とうとつにお城のなかがさわがしくなった。

「何? 雷?」
「ちゃうやろ。もっとこう、ドンパチしとるで」

 蘭さんの顔色が変わる。

「あれは……砲撃の音だ!」

 そして、キッとワレスさんをにらむ。
 うーん、蘭さんも麗しいから、怒ると迫力あるね。

「おまえ、きれいごと言っといて、すでに本国から軍隊よこしてきたんだなッ?」

 おおっ、ワレスさんの胸ぐらつかむ勢い。蘭さん、けっこう攻撃的なんだよね。美形同士がからむと、なんかエロいなぁ。
 それにしてもこのゲーム、女の子が……ブツブツ……。

 だが、ワレスさんは蘭さんの両手をつかんで引き離し、言いきった。

「違う。わが王はあんたの国との戦を望んでいない。だからこそ、おれが一身上に罪をかぶろうとしているんだろ?」

 それはワレスさんの言うとおりだ。
 花嫁が逃げたからって軍隊送ってきたんじゃ、それこそブラン王に戦の口実を与えてしまう。

 そのことについては、蘭さんも認めざるを得ない。

「……じゃあ、この音は?」
 つぶやいて、手を離す。

 僕らは、そろって廊下から顔を出した。そして、ギョッとする。
 一番反応早いのは、ワレスさん。
 サッとみんなを室内に押しこんで扉を閉めた。

「見たか? 今の」
「み、見ました……」と、僕。

 蘭さんや三村くんも、こわばった顔でうなずく。

 いったい、どういうことだ?
 城内にモンスターがいる!


 *

 モンスター。
 それも、スライムやキャタッピやぽよぽよみたいな、そのへんにわんさかいる弱っちいやつらじゃない。
 もう見ただけでわかる。
 それはゲーム終盤、魔王城のなかにしか出現しないような強力なモンスターだ。よろいやカブトを身につけた獣人(ビースト)系のやつら。または、ドラゴン。こんなの序盤に出てくる敵じゃない。

 これを見ただけで、僕は理解した。
 このイベントは、アレだ。
 主役がちょっとした冒険を終えて、いよいよ明日は出立の日という夜、村を殲滅(せんめつ)しに来る魔王軍。
 あれに間違いない。

(僕のせい? 僕が主役だから? いや違う……)

 ちゃんと伏線は張ってあった。
 そう言えば、詰所の兵隊が言ってたような?


 ——世界のどこかで勇者が生まれたらしいですよ。勇者は王子なんだって。


 蘭さんは王族の生まれだ。
 事情があって女のふりをしてたけど、ほんとは男だった。つまり、王子だ。
 たぶん、蘭さんがこのゲームの物語の勇者なんだ。

 そうか。僕は勇者の友人か。
 魔法使いにしては体力もそこそこあるし、腕力も少しはある。たぶん、僕はプリースト。勇者を守る僧侶なんだ。

 マズイぞ。
 ということは、早くこの城から逃げださないと、全滅する。

 僕だけじゃない。
 たぶん、ここにいる四人とも、みんなその考えに至った。
 数瞬、おたがいの目を見かわしたのち、うなずきあう。

「僕が男だって、魔物たちにバレたんですね」
「これまで王女のふりをしてたから、それが目くらましになってたんだね」
「おお、興奮するわぁ。おれ、勇者、初めて見るで」
「魔物たちは勇者のおまえを殺しに来た」

 さて、どのセリフが僕でしょう。
 正解は二番。
 あっ、つい緊張のあまりジョークをとばしてしまった。

「父上と母上を助けに行かないと!」

 蘭さんが叫び、今にも部屋をとびだしそうに。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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