第383話 その夜の夢

文字数 1,379文字



 蘭さんとスズランはミルキー城に残ったので、宿舎には僕とアンドーくんと、ぽよちゃんたちモンスターだけになってしまった。
 さみしいなぁ。

「アンドーくんは、どうするの? イケノくんを探すことが目的だったよね?」
「わは、かーくんの旅についてくよ。セイヤのことは悲しかったけど、魔王を倒さんと、セイヤみたいな人がなくならんけんね」
「そうだね。がんばろう」
「うん。がんばぁか」

 よかった。ぼっちにはならなかったぞ。

「じゃあ、とりあえず、明日からバッテリーのためにエレキテルの街に行こうかな」
「うん。早やに寝るか」
「おやすみ」
「おやすみ」

 その夜だ。
 僕は夢を見た。
 あの呪いの鏡のなかから、例の金髪美少女が僕を見ていた。
 ニッコリ笑った顔はほんとに綺麗だなぁ。北欧系の人って妖精みたいだよね。てか、妖精なのかもな。精霊族のお姫様って言われてたしな。こっちの世界では妖精もふつうに存在してる。

「わたしの魂の一部をとりもどしてくれて、ありがとう。ヤドリギはとても狡猾(こうかつ)な男でした。わたしと、あの人の仲を裂いたのも、あの男だったのよ。わたしがこの鏡に閉じこめられたのも、そのせい……」

「えーと、やっぱり、伝説の呪われたお姫様っていうのは、あなたのことだったんですね?」
「ええ、そう。わたしは心と体をバラバラにされて封印されています」

「あなたを助けだせば、魔王をやっつけることができますか?」
「……あの人がまだ、わたしを信じてくれるなら、きっと」

 うーん。なんだか、さっきから女神様の言う“あの人”っていうのが、どうも魔王のことらしく聞こえるんだけどなぁ。

「三人の巫女の力を借りてください。最後の決戦へと通じる扉がひらかれるでしょう。すべての人が力をあわせ、どうか、あの人を止めて……」

 ああ、また像がぼやけていく。
 まだ聞きたいことあったんだけどなぁ。

 銀ちゃんと戦った銀晶石の森の遺跡。
 あのなかにあった像は、この女神様をかたどったものなんじゃないかな?

 それに、女神様とたまりんが、よくシンクロしてるみたいなんだけど。
 たまりんはモンスターのはずなのに職業も覚えられたし、ほんとは人間? 人間の魂?
 あなたとたまりんは同一人物なんですか? 女神様?

 でも、そこで僕は目がさめてしまった。

「キュイ〜」
「ぽよちゃん。おはよう」
「ケロケロ〜」
「ケロちゃんも、おはよう」

 可愛いモンスターたちにかこまれて、幸せだなぁ。
 ここはカッコ苦笑カッコ閉じとつけたすところだ。(苦笑)これね。

「かーくん。朝食作ったけんね。食べたら出発さか」
「うん」

 僕らは朝のしたくをして、猫車をひいて城門の外に出る。
 街は今日も平和だ。
 空は晴れ、ぷかぷかと浮かぶ雲が、ゆっくりと風に流れていく。

 僕らが歩きだそうとしたときだ。

「かーくん! 僕を置いていくなんてヒドイですよ」

 かけよってくる人影。
 蘭さんだ。
 すっかり旅装が整ってる。

「ロラン。ミルキー城にいなくていいの?」
「父上もお元気になられたし、後始末もだいたい終わったから、ぬけだしてきました」
「いいの?」
「問題ありません。それにね。勇者は旅に出ないと、さまにならないじゃないですか」

 まあそうだ。

「じゃあ、行こうか」
「出発進行!」

 僕らのやりとげたこと、やりとげられなかったこと。
 やらなきゃいけないこと。
 たくさんある。

 冒険は終わらない。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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