第125話 溶けるソーダ
文字数 1,900文字
海スライムの内部の気泡がプクプクしたなぁと思ったら、急にプワーっとふくらんで、ふくらんで、ふくらんで……そしてパンと弾けて消えてしまった。
「スライム、消えたで?」
「消えたね」
「キュイ?」
「でも、まだ戦闘終わってないよね? 音楽が変わらない」
「うーん。なんでやろな」
すると、そのときだ。
僕は三村くんの足元が妙にプクプク泡立ってることに気づいた。
「あっ、シャケ。もしかして、ソレ……」
「ん? なんや?——あっ」
次の瞬間、プクプクのソーダは風呂敷のように薄く平べったく伸びて、三村くんを丸ごと包みこんだ。
「ああッ! シャケが食われたー!」
モガガモゴと三村くんは何やらわめいてるけど、言葉はよく聞こえない。
「ヤバイ! 早く出さないと窒息するよ!」
「わあっ! どげしたらいいかいね? 切る? 切るだ?」
「いや、切ったら、なかのシャケもケガするんじゃ?」
「ケガと窒息と、どっちがマシだ?」
「ケガだね!」
僕とアンドーくんが両側から切りつけようとすると、またプワーっとふくらんで、海スライムは三村くんから離れていった。
三村くんはピクピクしながら失神した……のか?
なんか違うな。目はあいてる。口もパクパクしてる。
「し、し……しびれ……しびれ………」
「しびれるの? 動けないの?」
コクコクと三村くんはうなずく。
「海スライムの溶けるって、マヒ攻撃なんだ!」
「マヒって、どげしたら治うで?」
「えーと……わかんない」
馬車のなかから声がとぶ。
スズランさんだ。
「マヒを治す専用の呪文はありません。全状態異常を治す呪文でしびれを消すか、マヒを治すアイテムを使うかです。どちらもない場合は自然回復しかありません」
「自然回復はするんだね」
「戦闘に勝利しても治ります」
「じゃあ、このまま戦闘を続けるしかないのか」
次のターンで海スライムを倒せば解決だ。
でも、肝心の海スラちゃんはどこに行ったんだろ?
溶けたまま姿が見えない……。
消えた海スライム……。
どこ行ったのかなぁ?
困ったなぁ。
僕らのターンなのに攻撃できない。
「どうしよう。てきとうに剣ふる?」
「それじゃ空振りになぁだない?」
「そっか。ムダにやつのターンにしてしまうと、一人ずつ順番にマヒにされちゃうね」
「全員、マヒになぁと全滅あつかいらしいよ」
「えッ? そうなの?」
「うん。動けぇ人がおらんけんね。そのあいだに攻撃受けぇが?」
「なるほど」
そのとき、僕は思いあたった。
マヒ……そういえば、マヒって……。
「アンドーくん。ぽよちゃん。僕に作戦があるよ。ちょっと耳かして。ゴニョゴニョ。ゴニョゴニョゴニョ……」
「ふんふん。ふうん。そげだ?」
「キュイ」
「——というわけで、アンドーくんと、ぽよちゃんは、シャケをかかえて馬車に逃げてほしい」
「わかった。あとはたのんよ」
ここに来るまでに百万は拾ってるんだから、全滅するわけにはいかないんだ。
アンドーくんとぽよちゃんは、指示どおり馬車にかけこんだ。シャケはアンドーくんにひきずられていく感じ。
これで馬車の外には僕一人だ。
と思った瞬間に、たまりんが馬車から出てきて、ポロンと海鳴りのハープを弾いた。困るなぁ。でもまあ、馬車の入口のあたりだし、狙われることはないかな。
僕は“身を守る”の行動をとった。
破魔の剣をかまえて、海スライムの攻撃を待つ。
ヤツは来た!
ジュワーッとソーダ色の壁が目の前に広がる。いっきに縮まって、僕を飲みこんだ。
わあっ。ソーダ。ソーダ。プクプクするー。強い泡風呂のなかに頭までつかってるかのようだ。
これって海スライムの体液なんだろうか? だとしたら、ヤダなぁ。
わけわからない炭酸水のような液体が、つかのま僕のまわりに満たされていた。プクプク……。
ほんとに窒息死させられたらシャレになんないんだけど、僕があばれなかったからだろう。二十秒ほどか。ちょびっとの時間でソーダの海は、スウっと下がっていった。膜がひらいていく。
この瞬間を待っていた。
僕には、ばあちゃんがくれた御守りがある。毒、マヒ、魅了を無効にしてくれる御守りだ。
しびれなんか効かないんだもんねぇ。ふふーん。
海スライムが溶けて消える前に、サッと僕は破魔の剣を一閃させる。剣をにぎったまま、スライムのなかでクルっとひとまわり。
海スライムは上下に輪切りにされて、ビクビク