第207話 消えた蘭さん
文字数 2,028文字
「僕、ロランを助けにフィリンドまで行きます!」
「そうですね。勇者の身に何かあったとすれば一大事だ。私も同行しましょう」
「えっ? ほんと?」
「ワレス隊長から、あなたがたのお世話を任されておりますので」
わ〜い。クルウの実力いかほど?
クルウと旅できるのは、これが最初で最後の機会かもしれない。
僕は急いでアンドーくんを呼びに戻った。
アンドーくんは土いじりをして幸せそうだった。植えたばかりの力の種に水をやっていた。
「アンドーくん。ロランが行方不明だって。探しに行くよ」
「えっ? 行方不明?」
「うん。フィリンドを発ったあと、消えたんだ」
やっぱり目を離すといけないんだな。
こっちの世界ではストーカーに拉致られたわけじゃないだろうけど。
何があったというのか?
「馬には乗ったことがありますか?」と、クルウが聞いてくるので、「ありません!」と正直に答える。子どものころに観光地で一回だけ乗ったのは、数に入れちゃいけないだろう。
「しかたありませんね。では、馬車で行きましょう」
クルウが目立たない地味な幌馬車を用意してくれた。かなり小さいやつで、大人二人とぽよちゃん、たまりんが乗るといっぱいだ。御者はクルウ。なんでもできる人だ。
さらば、花の都。
カジノ行きたかったけど、仲間が行方不明なんだもんね。ガマン。ガマン。
二頭立ての馬車はガラガラと進んでいく。
せっかく汽車で来た道のりを逆戻りか。汽車代がもったいないなぁ。
それにしても、蘭さんは装備品もいいし、レベルのわりにはかなり強い。よっぽどレベル差のある相手じゃないかぎりは負けることなんてないはずなんだけどなぁ。
馬車なんで、汽車ほど速くない。
途中の街で一泊した。
心ははやるけど、なかなか現地に行きつかない。街のなかで情報を集めたものの、やっぱり蘭さんたちを見かけた人はいなかった。蘭さんはあれほど美しい人だから、通っていれば人目につかないなんてことは絶対にない。
ただ、酒場でこんなウワサを聞いた。
「ん? 仲間が行方不明? フィリンドのそばで? ああ、あそこはダメだよ。近ごろ、フィリンドからノーランのあいだで、やけに娘っ子がいなくなるんだ。地元の人間は娘を外に出さないようにしてるんだってよ。たしかギルドにも娘っ子を探してくださいって依頼があったと思うねぇ」
「フィリンドとノーランのあいだの道すじには何があるんですか?」
「うーん。ポルッカランドっていう、小さな村があるだけなんだけどなぁ」
「ふーん。ポルッカランドですか。村なのに、ランド……」
「へんくつな金持ちが自分の国をきどってるって話だねぇ」
思いっきり怪しいじゃないか!
*
翌朝早くに出発して、ノーランについた。ノーランで目撃者を探したけど、やっぱり蘭さんたちを見かけた人はいない。
「これは確実にポルッカランドが怪しいですね」というクルウに、僕は聞いてみる。
「自国のなかで勝手にランドとか名乗られるのは困りませんか?」
「ただの俗称ですから。正式名称はポルッカの屋敷で登録されていますよ」
「登録されてるんだ」
「地図にも載っています。ポルッカさんはその昔、貿易王として世界に名をとどろかせたんですが、今は引退して趣味のコイン集めをしているという話でしたがね」
ん? コイン?
「小さなコイン?」
「そうです。猫のマークの」
僕の集めてるやつだ。
そうか。酔狂な金持ち、そこにいたか。
「でも、なんで、その屋敷のまわりで女の人がいなくなるんだろう?」
「さあ。そこまでは行ってみなければわかりません」
「行きましょう」
出立しようとしたときだ。
馬車に乗りこもうとする僕らを呼びとめる男がいる。
「ああッ! かーくんか? かーくんかいな。助かったわぁ。大変なんや。ロランとスズランがさらわれてしもてん」
んんー、この大阪弁はまちがいなく。
ふりかえると、三村くんが立っている。そばにはバランとくまりんも。
美しい人たちだけがいない……。
「シャケ。よく無事だったねぇ。いったい、ポルッカランドで何があったの?」
「それやぁ。もう四日前……いや、五日前になるんか? フィリンドを出て、小さい村についたんや。村んなかがダンジョンになっとってな。変やなと思っとったら、屋敷の前で急に煙がわいてでてきてな。気がついたらロランとスズランがおらんねん」
睡眠ガスみたいなものにやられたと。
「屋敷に行ってみなかったの?」
「それがなぁ。屋敷の玄関前に大きなヨロイの騎士がおんねん。おれらだけじゃ倒せへんかったわ」
三村くん、くまりん、イバラの騎士。
このパーティーだと回復役が誰もいないもんね。戦士だけ三人のパーティー。しかも装備品が以前のまま。
「わかったよ。じゃあ、ロランたちはその屋敷のなかだね。今すぐ助けに行こう!」
三村くんたちは僕らの幌馬車を持ってた。こっちは八人乗りなんで、この馬車に乗りかえて、一同でポルッカランドをめざす。
蘭さん、スズランさん、無事かなぁ?