第342話 大きな赤い本
文字数 1,702文字
走りだした僕はまっすぐ、ビッグブッキーに向かう。
的が大きいから攻撃が外れる心配ないしね。燃えつきろ〜とか使われたら困る。その前に倒そう。
素早さをあげて僕がとびついても、ビッグブッキーは動かない。
生き物なら、待機場所から遠く離れることはできなくても、多少、かわそうと身動きするものだけど。
まあいいや。やりやすい。
そう思って、ビッグブッキーの真正面に立ち、僕は思いきり垂直ジャンプした。大きく飛びあがって、精霊王のレプリカ剣をふりおろす。
そのまま、地面につくまで、剣をつきたて、赤い表紙をひきさいた。
ストーンと縦に長い切りとり線。
ドスンと音を立てて、片側がくずれおちた。
よしよし。これでもうビッグブッキーは終わりでしょ。次は火トカゲだ。
なんて考えてたのに、その瞬間だ。
ビッグブッキーにスー、スーっと格子状の線が入る。そして、バラバラとブロックのようになって降ってきた。
「わッ。危ないな」
ビッグブッキー、崩壊か。
あれ……?
なんか違う?
二メートルのビッグなブッキーが、縦二十センチ、横十二センチほどの小さなブッキーになって、フワフワと……。
わあああー!
ビッグブッキーがブッキーになった!
百体に増えたー!
ええー! これ全部、敵モンスターか?
しょうがないんで、僕はめいっぱい足ぶみして素早さをあげると、浮いてるヤツらをかたっぱしからやっつけた。
「えい! とう! やあ!」
パコンと一撃叩けば、ブッキーは倒せるんで、あとは数との勝負だ。僕の行動順のなかで何回、動けるか。
がんばったけど、それでも八十は残ってしまった。
ああ……八十。
これまでで一番多い敵だなぁ。
これが次のターンで全部攻撃してくるのか?
たとえ最弱の『燃えろ〜』だとしても、四人が均等にくらえば、一人につき二十回だ。ダディロンさんを数に入れたとしても、一人頭、十六回。大差ない。
魔法攻撃は基本、回避できない仕様だ。かわりに知力が高ければ、それが魔法抵抗力になる。
今の僕らなら、燃えろ〜をくらっても、一回につき十から二十ていどのダメージにしかならない。とは言え、二十かける二十だと四百だ。
僕は大丈夫だよ。HP1000超えだからね。でも、ほかのメンバーは四百もダメージくらったらヤバイ。
ケロちゃんなんかHP90しかないんだけど……。
マズイ。これは、マズイぞ。
僕以外のメンバーが総くずれになってしまう!
ど、どうしようかなぁ……。
このままだと次のターンで、みんなが倒れてしまう。
となると、その次のターンでまた二十匹、僕が倒したとしても、残りは六十匹だ。二十ダメージかける六十回。
千二百ダメージか!
さすがに死ぬな。うん。死んじゃう。
蘭さんに貰った『みんな、ありがとう〜』をふきこんだ魔法カード、ここで使う?
そしたら全滅はまぬがれるけど、こんなザコ戦でイチイチ切り札使ってたら、ボス戦のときに余力がないよ。
僕は決断した。
このまま僕以外のみんなが全滅するよりは、ここは僕一人で次のターンの攻撃を受けて、そのあとのターンで蘇生してもらったほうがいい。
「ぽよちゃん、ケロちゃん、シルバン。馬車に入って。行動しないで後衛にさがれば、次の攻撃を受けないですむ」
シルバンは猫車に入った。
だが、ケロちゃんと、ぽよちゃんは残ったままだ。
「ケロォ……」
「キュイ……」
どうやら、なかへ入れないらしい。
そうか。ケロちゃんは自動石化攻撃したしな。ぽよちゃんは聞き耳をした。
変だな。自動発動や聞き耳みたいな予備行動だけなら、今までは後衛に下がれてたような気がするけどな。なんで今回にかぎってダメなんだ?
そうか。もしかして、サラマンダーの火の結界ってやつか? ちょっとでも行動したターゲットを逃さない結界なのか……。
これはもう……詰んだな。
ビッグブッキーがまさか細切れになって、ブッキーに変化するとは思ってなかった。甘く見た僕が悪いんだけど。
ああ……。
そのときだ。
急にダディロンさんが叫びだした。
「うおーッ!」
ん? おじさん? どした?
「うおーッ! 冷却水!」
空中に冷水の雨が噴きだしたー!