第297話 怪奇! モリーの合体
文字数 1,882文字
急いでギルドの三階にかけあがり、ぽよぽよ草をピンキーハート号の飼い主さんに手渡した。
そのあと、旅人の帽子でポルッカさんの屋敷まで飛んでいくことになった。が、
「あっ、わは夕食作るけん、さきに宿舎に帰えわ」
「わたしも手伝います」
アンドーくんとスズラン離脱!
旅人の帽子をみんなが持ったもんだから、自分の帽子で好きなときに飛んでいけるようになった。移動魔法のありがたみが薄れたなぁ。
「えーと……じゃあ、夕ご飯、よろしく」
「うん。行ってらっしゃい」
スズランって、いっつもアンドーくんといっしょだよな。
ま、まさか、そうなのか?
僕には冷たい視線しか送ってこないのに……ぐすん。
たまりんが、ゆらりとゆれた。
「ありがとう。たまりん」
ゆらゆら〜
「あっ、かーくん。僕が旅人の帽子使ってみてもいいですか?」
蘭さんがワクワクしたようすで言う。僕はうなずいた。
「うん。いいよ」
「ポルッカ屋敷前ですね。旅人のぼう——って、選択肢が出ませんよ!」
「あっ、そうか。これって手に入れてから行った場所しか移動拠点にならないんだった。僕といっしょに飛べば、次からは行けるよ」
「なら、拠点作りのために、サンディアナやほかの場所にも寄り道してください」
「僕が行けるのは、マーダー神殿、サンディアナ、ノーラン、シルバースター、あっ、オリヤも行けるようになってる。あと、ダンジョンで、竜の岬と朝焼けの崖だね」
「マーダー神殿からシルバンとスラちゃんもつれださないと」
「そうだね」
そんな話の流れで、まずマーダー神殿へ行った。
モンスターおじいが出迎えてくれた。
「おまえさんがた、せっかく、わしが居心地のいいモンスター小屋を作ったのに、ちっとも仲間モンスターを送ってこんじゃないか。もっともっと、ここを動物園なみに繁盛させてくれんかのぉ?」
「繁盛?」
「あっ、いや、まあ、ムニャムニャじゃ。ほっほっほっ」
うーん。もしかして、預かったモンスターを見世物にしてるんじゃ……。
ぽよちゃんは絶対に預けたくない。
「えーと、なかなか補欠の子が増えなくて。じゃあ、シルバンとスラちゃん、つれだしますね」
たしかにシルバンたちをつれだすと、草原の広い柵のなかに、スライム二匹しかいない。
「僕がたくさん仲間を増やしますから。いつかはここをモンスターでいっぱいにします」
「そうだねぇ。もっともっと強いモンスターもいるかもだしねぇ。ロラン、がんばれ」
「はい。がんばります」
と、そのときだ!
モリーとスラちゃんが、まるでひきよせられるように、おたがい近づいていく。
「ん? 何してるんだろ?」
何やら見つめあって、同じ振動数でプルプルしてる。
この感じは前に、シルバンが銀ちゃんと交信してたときに似てる。
同種族のモンスター同士は彼らにしかわからない何かで、意思の疎通をとりあっているみたいだ。
モリーとスラちゃんはプルプルしながら、うなずきあってる。
「あッ! 大変です。モリーが!」
「す、スラちゃんを……」
モリーがスラちゃんを食べてしまったー!
そんなぁ。モリー、使えると思ったのに、共食い
恐怖にふるえる僕と蘭さんの前で、モンスターおじいが、ふぉっふぉっふぉっと、歯のぬけた笑いを響かせる。
「なんじゃ。おまえさんら、知らんのか? あれはスライム合体じゃよ」
「スライム合体?」
「スライムのなかには生まれつき、合体という特技を持っとる個体があってな」
「合体は子グマちゃんも使いますよね?」
「技名はいっしょじゃが、ほかのモンスターの使う戦闘中のみの合体とは違うんじゃ。スライム合体は特殊でのう。仲間同士が合体することによって、相手の技を受け継ぐことができる。スライム系同士でしか合体はできんのじゃが、ほれ、見てみんさい。この森スライムも、スラちゃんの技を受け継いどるはずじゃぞ」
ステータスで確認すると、合体のところに書きたされていた。
得意技
合体 (ランク1 残り九個まで記憶できる)
体当たり
あれだ。ラーニングだ。
モンスターの使う技を覚える特殊な魔法の一種。
これもゲームのなかでは何度か見た。
モリー、なんて子だ。
変身だけでも驚異的なのに、その上、ラーニングまで。
スラちゃんは消えてしまったけど、うなずきあってたから、きっと自ら望んでのことだったんだろう。
スライム族にとって、自分より強い仲間と一体になることで、より長く確実に自分の細胞を残すことは、ごくありふれた生存本能なのかもしれない。
これでモリーも変身以外の得意技が使えるね。
もしかしたら、ものすごい戦士に化けるかも?