第276話 秘伝書の魔法をおぼえてみよう

文字数 1,481文字



 魔法屋のなかに入った。
 ん? 受付のお兄さんがいない。
 魔法使いは夜行性かな?
 いや、違う。
 カウンターの下にしゃがみこんで隠れてるだけだ。足が見えてる。

「おはようございます。えーと、人間嫌いのお兄さん」
「…………」
「見えてるんで、出てきてくださいよ」
「——おれは人間嫌いなわけじゃない! アレルギーなんだ!」
「えっ? 人間、嫌いじゃないんだ?」
「ふつうにさみしがりやだよ!」

 うーん。ややこしい人だなぁ。

「秘伝書の使いかた教えてください」

 人間アレルギーの人間好きは、恐る恐る近づいてきた。

「こうするんだよ!」

 あッ! 僕の持ってた秘伝書をうばいとり、スカンと頭をなぐった。
 腹いせか?
 暴力反対ー!

 ん? でも、なんだろなぁ。
 頭のなかにキラキラと呪文がおりてくる。


 死なないでェー!( ;∀;)


「な? おぼえたろ?」

 お兄さんはそそくさと、あとずさる。
 僕をなぐった秘伝書は消えていた。

「僕じゃなくてアンドーくんに覚えてもらいたかったんだけど。まあいいや、いっぱいあるし。秘伝書で頭を叩けばいいんですね?」
「そう」
「誰がやってもいいんですか?」
「うん」

 僕はアンドーくんの頭を三回なぐった。かるくね。かるく。
 『死なないでェー』と、『みんな、元気になれ〜』と、『弱くなれ〜』だ。
 ちなみに、弱くなれ〜の顔文字は、これ。


 メッ ☆︎ヾ('・'*)


 メッて言ってるよ?
 まあ、それはそれ。
 アンドーくんが後衛援護スキルを手に入れたあかつきには、みんなを援護できる補助魔法や回復魔法が役に立つ。
 アンドーくんは隠れ身やトドメも持ってるから、前衛が全滅したときの切り札的な存在になるだろう。

「あと三つ『死なないでェー』があるなぁ。三村くんにも覚えてもらっとこうかな。僧侶とかなれなさそうな気がするから」

 死なないでェーは賢者が覚える呪文だ。僧侶ではまだ覚えない。
 ましてや、賢者は僧侶と魔法使いをマスターしてからじゃないとつくことのできない上級職だ。三村くんの知力の数値を考えると、たぶん、魔法系の職業にはつけない。単体完全復活だけでも知っといてもらうと、ピンチのとき、思いがけず役立つかもしれない。

「あと二つはモンスターかな。たまりんは自力でおぼえられそうなふんいきだし、ぽよちゃんに覚えてもらおうかな。ぽよちゃんは素早いから、いざってときに、サッと行動できる」
「キュイ!」

 ぽよちゃんの頭をポコンと叩く。

「ピュイ〜!」

 ちゃんと覚えたようだ。
 最後の一個はとっとこう。
 パーティーのようすを見て、誰に覚えさせるか決めよう。

「じゃ、魔法屋のお兄さん。ありがとうございます」
「ちょっと待った。買ってかないのかよ?」
「だって、在庫ないんでしょ?」
「魔法を売ってない魔法屋なんて、魔法屋じゃないだろ? 商品は日替わりなんだよ」
「あっ、そうなんだ」
「今日のおススメは、これだ!」


 プチサンダ〜°˖✧︎◝︎(⁰▿︎⁰)◜︎✧︎˖°


 あっ、ワレスさんが使えるやつだ。
 風属性は職業じゃ覚えられないんだよね。

「プチだからってバカにするな? こういう属性の基本魔法はMP消費が少なくてすむ上に、知力をあげて敵の弱点をつけば、ザコモンスターくらいなら一発で倒せる。水系のモンスターには効果絶大なんだぜ」
「貰っときます。ほかのもまとめて」
「買いしめはダメだぞ?」
「ほかにも在庫あるんですよね?」
「あるけど」
「じゃあ、ください」
「二割引きで四万円な」

 けっこう商売上手だなぁ。
 ほんとは、在庫いっぱいあるんじゃないのか?

 ニヤニヤ笑うお兄さんに見送られて、僕らは魔法屋をあとにした。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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