第263話 一日の終わり
文字数 1,772文字
石になったベベロンさんと、カンオケ四つをひきつれて、ギルドに帰ってみると——
「なんか、今日、にぎやかだね? 酒場、すごくない?」
「お客さん、多いですね」
もともと大きなギルドで酒場も広い。
それにしても今日はテーブルもカウンターも全部、埋まってる。百人? いや、二百人はいるんじゃないだろうか?
「あっ! 帰ってきたぜ」
「コイツだろ? コイツ」
「見た。見た。たしかに、コイツだった」
わあっと冒険者たちが僕のまわりによってきて胴上げを始める。生まれて初めて胴上げされた。これまで文系で生きてきたから、こんなの縁がなかったからなぁ。
「な、なんだ、なんだ? なんなんですか?」
あわてふためいてるうちに、二、三回、お手玉みたいに空中になげあげられる。赤ん坊じゃないんだからさ。高い高いされたって喜ばないよ? むしろ怖いって。
ようやく、おろされる。
でも、酔っぱらいにかこまれる状況は続く。おじさんたち、酔ってるなぁ。
「いやぁ、ありがとよ。気前のいい兄ちゃんだなぁ」
「どこのぼんぼんだ? まあいいさ。これからもよろしくな」
「いいねぇ。こんな雇いぬしばっかなら、毎日、呼ばれてもいいよな」
もみくちゃにされてヘキエキしてる僕を、酒場のバニーちゃんがクスクス笑いながら見ていた。
「はい。これ、あちらのかたから、あなたに」と言って、銀のトレーに載ったカクテルを渡してくれる。
えっ? えっ? 誰? 誰? 美人からかな?
期待したけど、ツンツン頭の傭兵隊長が、こっちに向かって手をふっていた。この前、誘いを断ったから怒らせたかと思ったんだけどな。
手招きしてるんで、しょうがなく近づいていく。
「なんでしょう。お誘いは断ったはずですが」
「そのことはいいんだよ。おれの部下どもに大金払ってくれたんだって? ありがとよ」
「ああ、傭兵呼びのことか」
「そうだ。傭兵呼びに応じられるってやつは、ギルドのリストに登録しておく。そうすると誰かが傭兵呼びを使ったときに、魔法の力で戦闘現場に召喚されるんだ。金額によって呼ばれる人数は違うんだが、今日は登録者全員が十回も呼ばれたからな。傭兵の給料より大儲けだぜ」
そうか。傭兵呼びって、どっか虚空から兵隊っぽいものを呼んでるのかと思ってたけど、違うんだな。ちゃんと、この世界の人間が呼ばれてたのか。
「どこのバカが傭兵呼び一回に三百万も出すんだって話よ。そいつの顔が見たいぜって言ってたんだが、まさか、おまえだったとはね」
バカで悪かったですねぇ。僕だって、三百万も出したくて出したわけじゃないんだけど。それも十回も。
デギルだったっけ?
ツンツン頭の隊長は嬉しそうに僕の肩を叩いた。笑ってる顔はけっこう、きさくだな。
自分が呼ばれたわけじゃないのに部下のために喜んでるみたいだし、案外、悪い人じゃないのかも?
ワレスさんのことは嫌ってるみたいだったけどな。
「えーと、じゃあ、この人たちも傭兵みたいだし、カンオケだけどお返ししときますね。モンスターの目くらまし攻撃にやられて自滅してたんで、拾ってきました」
ダルトさんたちのカンオケを引き渡す。デギル隊長は苦笑した。
「ダルトも昔はいい腕してたんだがな。相棒がいなくなってから、さっぱり、ふるわなくなって」
「そうなんですか」
「とにかく、またなんかありゃ遠慮なく、みんなを呼んでくれ」
ウィンクをよこして、気持ちよさそうに酒をあおってる。
うーん。やっぱり、悪い人には見えない。なんで、ワレスさんのことを嫌ってるんだろうな?
ちょっと聞いてみよう。
「あの、なんで、ワレスさんと対立してるんですか?」
とたんに、デギル隊長は不機嫌になった。
「対立? あっちは屁とも思ってねぇよ」
それは……そうかもな。
ワレスさんはクールだからな。
「あいつは裏切り者だ。もとは、おれたちと同じ傭兵だった。なのに近衛騎士の話が来たときに、あっさり受けて、おれたちを捨てていったのさ。お気に入りの何人かだけつれてってな」
「ガ——」
ガキだッ! コイツ!
憧れの隊長に置いてきぼりにされて、すねたんだな。子どもかッ?
「あーん? ガって、なんだよ?」
「あっ、いえ。ガッカリですね」
ガッカリ。これすなわち、忖度!
「だろォ?」
「ははは……」
デギルさんは思いのほかピュアな人のようだ。
心にインプットしとこう。