第144話 こんにちは、廃墟
文字数 2,205文字
持ちものを全部とりあげられてしまった。
ミャーコポシェット……あれがないと旅をするのに困るじゃないか。
ほんの十五メートル歩けば金貨何枚も拾うんだよ? ふつうのポッケじゃ、あっというまにパンパンになってしまう! 四次元ポケット必須!
しかし、泣いても笑っても今の僕には、いかんともしがたい。
竜兵士に剣のさきっちょで背中をゴリゴリされて、トボトボと歩いていった。
うーん。廃墟だなぁ。
四階建てかな?
古い時代のなんかの名残だ。まあ、お城か砦なんだろうな。
レンガ造りの茶色い建物は上部の壁がくずれてる。
迫力……。
お、オバケは住みついてないよね?
僕らは全員、ゾロゾロと廃墟のなかへ入っていく。入るとすぐに広いホールになっていた。昔は立派な建物だったんだろうけど、今はクモの巣が飾りになっている。
僕は最後尾なんだけど、見ると、アンドーくんやぽよちゃんたちが、まだなかに入ってないのに、竜兵士たちは玄関の巨大な両扉を閉めようとしていた。
まあ、竜兵士にはアンドーくんたちの姿、見えてないしね。見えてても、ただでは入れてくれないだろうけど。ボコるか捕虜にするかだ。
僕はあわてた。
とっさに叫んだ。
「す、すみません! あの、トイレはどっちですかっ?」
「はぁ? なに言ってるんだ、おまえ」
「だから、トイレですよ。どこにあるか知っときたいんですけど。僕、緊張すると、お腹ゆるくなるタイプなんですよね!」
「バカなこと言ってないで、さっさと歩け!」
僕はゴツンと頭を竜の手でこづかれる。さらにはモンスターに緊張に弱い下痢ピー男だと思われた。
い、いいんだもんね。
モンスターになんと思われたって、恥ずかしくなんかないんだもんね……。
僕が時間かせぎしたおかげで、アンドーくんや、ぽよちゃんや、たまりんも廃墟のなかへ入ることができた。
そして、みんなが入ったあと、玄関ホールの扉は閉ざされた。重く固い鉄の扉だ。
ガチャリとカギのかけられる音が響きわたる。
これでもう、玄関からは出られない……。
*
僕らは竜兵士の先生を先頭にした幼稚園児よろしく、ピヨピヨとあとについていく。
地下へと続く暗い階段をおりると、そこに牢屋があった。ろうかの両側に鉄格子の扉が何十もつらなっている。
「入れ」
僕らは順番に十人ずつくらいで、牢に入れられていく。
最後尾の僕はろうかを奥まで進んでいって、つきあたりの端っこの牢屋になげこまれた。最後だったせいで、人数が少ない。僕をふくめて、たった二人だ。
牢獄の相方は、まだ七、八歳くらいの少年だ。すごいソバカスくんですな。服もやぶれてるし、薄汚れてて、みなしご感がヒシヒシと伝わってくる。
ドン、ドンと押されて牢屋に入れられて、冷たい石畳の上になげだされた。
もちろん、鉄格子の扉にはカギがかけられた。
ケケケっと笑って、竜兵士は去っていく。
「イテテ。君、大丈夫? ケガはない?」
「ふん。このくらい、ヘッチャラさ」
「勇ましいなぁ。僕は、かーくん。君は?」
「……ナッツ」
ナッツか。香ばしい名前だ。
「兄ちゃん。食いもん持ってない?」
「ごめん。さっき、カバンとりあげられちゃった」
「だよな。チッ。使えねぇヤツ」
うっ。二十歳近く年下の相手に、使えないって言われた。
「ナッツはどこでさらわれたの?」
「さらわれたんじゃねぇよ。デッカいキャラバンだからさ。なんか金目のものないかなと思って忍びこんだら、いつのまにか走りだして、変なとこにつれてこられたんだよ」
「そ、そっか……」
「アイツら、魔物だよな? これから、どうなんの? おれたち、もしかして食われんの?」
うーん。どうなるんだろう。
でも食うためだけなら、わざわざ各地から運んでくるだろうか?
ここにつれてこられたのには、もっと深遠なわけがあるんだと思う。
すると、そこへ、外から足音が近づいてくる。アンドーくんたちかと思ったけど、さっきの竜兵士だ。
「ほれよ」と言って、パンを床の上にザラリとなげてよこしてくる。
どうやら、これが僕らの今夜の食事のようだ。たぶん、ほかの牢屋にも同じものが配られたんだろう。
ナッツがサッと走っていって、パンをかかえた。僕に一個、渡してくるんだけど、受けとったときに、すでにガチガチだと気づいた。
「か、かたい。石だよ。これ。牢屋のなかで出されるパンって、たいてい固いよね。アレってなんでかな? わびしさを表現するためかな?」
「兄ちゃん食わないんなら、オレが食う」
サッと手を伸ばしてきて、ナッツは僕のパンを奪った。まあ、いらないからいいんだけどね。あんなの食べたら歯が折れてしまう。
あーあ。ミャーコポシェットのなかには、非常用のチョコレートとか、お菓子も入ってたのにな。早く現実に帰って、僕の大好きなプリングルスのサワーオニオン味が食いたい。カールのチーズ味でもいい。
すると、そのときだ。
どこからか、猫の鳴き声が聞こえてきた。
「ニャア」
うん? 幻聴か?
今の声は、うちのミャーコのような?
まわりをキョロキョロ見まわした僕は信じられないものを見た。
鉄格子のむこうから、ミャーコの白い顔がのぞいてる。