第296話 走る魔法猫
文字数 1,607文字
たしかにカバンなのに草原を走りまわってたしな。
なんか、いわくつきのものなんだろうとは思ってたけど。
そうか。魔法の布地だったのか。布地っていうか、猫のぬいぐるみだけど。
「これが馬車のほろ布になるんですか? カバンになってますけど」
「わしを誰だと思っとるんだ? 天才鍛冶職人のザッフとは、わしのことなりィー! わしにできん仕事などなーい!」
はぁ……なんで、この世界の老人って、みんな元気がありあまってるんだ? それに、くどい!
「……そ、そうですか。じゃあ、お願いします。どのくらいでできあがりますか?」
「一晩、あずけてくれェーい!」
「あっ、一晩でいいんですか。じゃ、すぐにお願いします。裏口に馬車あるので」
もっとかかると思ってたので、じつのところ、僕は長期で預けないといけないかと覚悟してた。たった一晩でいいなら、願ったり叶ったりだ。
ところが、ザッフさんはじっさいに僕らの馬車を見ると首をひねった。
「おんや。これはこれで、なかなか悪くないな。大事に使われてきた古い時代の馬車じゃな。大型のほろ布を使えば別の形に改造できそうだ。よし! わしに任せとけ。いいようにしちゃるでのう。ぐふふ」
ぐふふって……なんか心配になるんだよなぁ。この人。
まあ、前払い金はムダじゃなかったみたいだ。
「明日の朝、とりにきたらいいんですね?」
「朝はムリかもしれんな。予定が変わったんでな。昼前にはできておるじゃろう。では、そういうことで」
僕らはザッフさんに馬車とトラ猫リュックを預けた。
ついでに僕は銀行へ。
「はぁぁっ。後半、職業経験値のためにやたらと歩きまわったからさぁ。いつのまにか五……五十億、拾ってるんだけど!」
「わあっ、かーくん。五十億、すごいがねぇ。わやつもその十分の一でも拾えたらなぁ」
「そうだよねぇ。銀行の口座って一人ずつ別個だから、今なら、みんなも貯金のプレゼント貰えるのにねぇ」
「そげだねぇ」
あはは、はははと笑いあったあと、僕らは気づいた。
「えっ? 人数ぶんのプレゼントあったら、どげなるで?」
「もうほかに武器防具いらなくないですか?」
「風神のブーツが人数ぶん……」
なんで今まで、その考えに思いいたらなかったんだろう?
不思議でならない。
「僕がみんなに一億ずつあげるから、それぞれに口座を作って貯金して!」
「わあっ、かーくん。ガイなねぇ」
「いいんですかっ? かーくん!」
「あの、わたくしもですか?」
あっ、スズランの目が僕を見て輝いてるとこ、初めて見た。
「いいよぉ。一人一億なんて、三億じゃん。五十億もあるんだもんねぇ〜」
ああ、この世をばわが世とぞ思ふ望月の……ウットリ。
そのあと一人ずつ順番にお金を預けに行った。
銀行員のおじさんは泣いていた。
嬉しいのか悲しいのか、よくわかんない顔だ。
かなりいいアイテムぞろいだもんなぁ。立て続けにプレゼントととなると、けっこう痛いのかな?
「も、申しわけありません。この短期間で、これほど大勢のかたから高額預金をいただけるとは想定しておりませんでしたので、特典のいくつかは一点物でした。したがって、創世の剣、風神のブーツ、詩神のハープは、かーくんさまにお渡ししたものが最後でございます。かわりになるものを準備いたしますので、しばらくお待ちいただけますでしょうか?」
まあ、しょうがないか。
こっちもお金の出所は一人だから、ドーピングみたいなもんだしね。
だけど、一点物の三品以外はこれで、さらに三人ぶん手に入った。
「はい。かーくん。これは返しておきますね」
蘭さんが前に渡した流星の腕輪を返してくる。
「僕には精霊王のよろいもあるから、オリハルコンのよろいは別の人がつけるといいですよ」
「よろいはバランがいいね! かばうのために防御力はどんなに高くしても、しすぎじゃないし」
「ああ、僕ら、どんどん強くなっちゃうね!」
さてと、じゃ、三村くんのようす見に行くか。