第320話 意外な助け

文字数 1,207文字



 その後もおじさんは華麗なクニャクニャステップで、僕らの攻撃をかわした。魔法は鼻ちょうちんで消しとめる。

 すごい武道の達人なのかと思えば、攻撃は大したことなかった。
 にぎりこぶしを腹に打ちこまれたものの、ぽすっとなさけない音がして、おじさんの手が赤く腫れあがっただけだ。
 おじさんの両眼から、これまたギャグマンガみたいな涙の丸い玉がたれた。

「やっぱりあやつられてるからなんだね。夢遊拳ってやつで動きはキレてるけど、力は村人のままなんだ」
「それはいいけど、どげすう? このままじゃ倒せんよ?」
「うーん……」

 これは困った。
 倒せなくても、こっちもやられる心配はない。
 でも、こうしてるあいだにも、蘭さんたちがどんなめにあわされてるか……。

 向こうにはワレスさんもいれば、クルウもいる。戦力的にはなんの問題もないと思うけど。わかんないからな。
 思いもよらない奇襲を受けてる可能性だってある。

 僕とアンドーくんは困惑ぎみに、おじさんをながめた。コンニャクみたいに変な動きで、おじさんは僕らを挑発している。
 と、そのときだ。

「こげしたらいいよ!」

 とつぜん、どこからか声がした。
 おじさんの鼻ちょうちんがパチンと音を立ててはじける。
 一瞬、おじさんの目があいた。
 そして、トスっと首のうしろに手刀を叩きこまれたおじさんは失神した。


 野生の村人を倒した。
 20の経験値を得た。20円を手に入れた。
 おじさんは宝箱を落とした。
 眠りの帽子を手に入れた。


 眠りの帽子? なんだ、それ? 強いのかな?

 説明を見ると、戦闘中、必ず睡眠状態になってしまうって書いてある。
 なんじゃこりゃ。いらないなぁ。
 あっ! そんなことより!

「誰? 助けてくれたの」

 見ると、そこには小柄な少年のような人影が立っている。
 イケノくんだ。

「大丈夫だった? 村の人やつが、なんかおかしいね」と言って、イケノくんは笑いかけてくる。

「うん。倒せなくて困ったけど、攻撃はヘナチョコだったから」
「ふうん。わの親もどっか行ってしまったけど、なんでだ?」
「……さあ、わかんないけど」

 わかんなくはない。
 まちがいなく、悪のヤドリギの仕業だ。
 ポルッカさんの屋敷であったように、ヤドリギのカケラに取り憑かれた人が村人のなかにいて、そのせいで村中の人たちが魔法にかかっているのだ。

 でも、それをイケノくんに教えていいものかどうか、僕は悩んだ。

 イケノくんはもうヤドリギにあやつられてないのかな?
 それとも、イケノくんが

から、村に魔法がかかってるのかな? イケノくんが媒体になって……?

 判断に苦しむところだ。

「かーくんとミツルは、どこに行くの? わは親を探すけど」
「えーと、仲間と合流しようと思って」
「どっちのほう?」

 僕が村の中心あたりを示すと、イケノくんはうなずいた。

「なら、いっしょに行かや」

 うーん。いっしょに行っていいのかなぁ? よくないのかなぁ?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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