第194話  ボイクド城

文字数 1,189文字



 ボイクド国の王城は、その昔、砦だったという。古い時代には、ここが国境の果てであり、深い森のなかにある要塞(ようさい)だったのだ。
 だから、お城は灰色の石でできた頑健な造りで、華麗な白亜の城とは言えない。高い物見の塔が四方を守り、何重にもなった高い石塀には、いくつも銃眼が切られていた。

 ああ、感慨深い。
 このお城をめざしてから、ずいぶん長いこと旅してきた気分だなぁ。
 じっさいの日数で言えば、ほんの二週間ばかりなんだけど。

「こちらへどうぞ」

 堅牢な城門をくぐり、なかへ案内される。でも、まだイベント中らしくて、自由には城内を歩けない。クルウのあとをひたすら、ついていくだけだ。

 大きくて複雑なお城だなぁ。
 くねくねと、あっちこっち歩いて、やっと三階の部屋についた。

「ワレス隊長。つれてまいりました」
「ああ。入れ」

 カチャリとクルウの手でドアノブがまわされ、扉がひらく。
 明るい陽光のふりそそぐ窓をバックに、その人がすわっていた。
 わあっ、やっぱり何回見ても感動するなぁ。僕の英雄〜
 日差しを受けたときの金髪はズルイでしょう。綺麗だなぁ。肩にこぼれるブロンドが黄金のようにまばゆい。
 あいかわらずの美形っぷりに惚れ惚れしてしまう。
 女の子も金髪碧眼だと萌えるから、やっぱ、こういう造形が好きなんだなぁ。しみじみ。ん? ワレスさんは男だけどね。なんか特別。

 ワレスさんは僕を見て笑った。
 ふへへ。

「わが国の国王陛下の前だぞ。気をひきしめろ」

 あっ。コーマ伯爵もいたのか。
 この世界では伯爵じゃなくて国王なんだけど。僕の小説のなかでは国境のボイクド砦の城主で伯爵だ。
 黒髪で黒い瞳の……まあふつうに整った人。俳優で言えば、竹内涼真とか、松坂桃李とかかな。
 えっ? ふつうじゃない? 充分、イケメン? そうなんだけど、だって、ワレスさんのあとじゃ、どんな人でもふつうに見えるんだよ。そんぐらい群をぬいた美青年なんだよぉ。でへへ。

「よいではないか。そなたが、かーくんか。さあ、ここへ来てすわりなさい。そなたの話を聞かせてくれ」

 コーマ王は物腰のやわらかい、いかにもおぼっちゃん育ちのおっとりした人だ。
 うん。これも想像どおりだなぁ。

 そこは会議室のようだった。
 長卓が一つ部屋のまんなかに置かれていて、そこに王様とワレスさん、あともう二人。
 一人はたぶん、ガロー男爵だ。小説のなかではコーマ伯爵の幼なじみで親友。
 もう一人は……もしや、司書長なんだろうか? 栗色のストレートの髪を肩の下まで伸ばした色白の可愛い女の子なんだけど、この人はワレスさんのシリーズのなかでも、まだネットに公開してないさきの部分に出てくる。永遠の十五歳に見えるものの、実年齢はワレスさんのお母さんくらい。魔法使いたちの長をしてる。

 そうか。お城のブレーンが集まってるってことか。
 とりあえず、背筋のばそう。
 ニヤケすぎてた。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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