第19話 シルキー城からの脱出

文字数 1,551文字


「ちょっと待った! 廊下には魔王城級のやつらがウジャウジャいるんだよ?」

 僕はあわてて、蘭さんをひきとめた。

「せやで。ムチャや。らんらんさま。あんた、レベルいくつなんや?」と、三村くんも追随(ついずい)してさとす。

 蘭さんが答える。
「レベル16」

 レベル16か。
 まあ、序盤にしては弱くはない。どっちかっていうと、まあまあ強いほうだ。でも、そんなのラスボス直前の魔物たちを相手にするには、ぜんぜんレベル不足だ。最低でもレベル35はないと、魔王城のなかを歩きまわることもできない。しかも、それでも魔王を倒すにはギリギリくらいのレベルだ。

「でも、父上と母上が! ほっといたら死んじゃうよ。僕は一人でも助けに行く!」

 ああ、ダメ。ダメ。
 無謀な勇者って、タチ悪いなぁ。
 蘭さん、性格“怖いもの知らず”だもんな。

 すると、僕がとどめるよりさきに、ワレスさんの手が伸びた。パンッと音をたてて、蘭さんの頰をな……殴った。平手だけど。よく殴れるな、こんな美しい人を。そうか。自分の顔を見なれてるからか。

「バカヤロウッ! おまえが死んだらどうする? 世界が絶望に沈むんだぞ。おまえだけは、どんなことがあっても生きのびなければならない。どんなことがあってもだ」

 蘭さんは叩かれた頰に手をあてて、ワレスさんを見つめる。ハラハラとその瞳から涙がこぼれてきた。

「……じゃあ、どうしたらいいの? 父上や母上は?」
「心配するな。おまえが逃亡しそうだから、前もっておれの部下たちにお二人の寝室を見張らせている。やつらがお守りしているだろう。だから、おまえはおれとともに逃げるんだ。いいな?」

 こくんと、蘭さんが首肯した。

 ゴクリ。魔王城からの脱出……。
 うまくいくかな?


 *

 僕は口を出した。
 このなかで、一番レベルが低いのは、たぶん僕だからだ。

「あの、僕レベル7なんです。あのクラスの魔物と戦闘になったら一撃死です。なんで、なるべく戦わないで行きたいんですけど、どうにかなりませんかね?」

 ワレスさんはため息をついた。
 いくらなんでも、レベル7は低すぎたか。

「城門や外へ通じる裏門は、すべてやつらの見張りがついているだろうな。おれも一体(サシ)でなら倒せるが、囲まれるとおまえたち全員を守れるかどうか自信がない」

「ちなみに、自分、レベルなんぼなんや?」

 三村くんに聞かれて、ワレスさんはクールに答える。イッツクール。ベリークール。

「47だ」

 よ——四十七ですとっ?
 そんなの魔王城に余裕で乗りこめるレベルじゃないか。

「えっと、職業はなんですか? 魔法戦士? 騎士(ナイト)? もちろん上級職ですよね?」

 ワレスさんはニヤリと白い歯を見せる。
狂戦士(バーサーカー)だ」
「ええっ? そ、そんなの仲間も危険じゃないですか?」
「冗談に決まってるだろ。聖騎士(ホーリーナイト)だよ」
「なんだ」

 僕はホッと胸をなでおろす。
 なんか、いろいろ気づいたんだけど、この人って微妙に猛っぽくないか? 絶対、僕をからかって楽しんでたよね? ぽよぽよどころか、ポチっぽいと思われてるに違いない。

「おれは商人。その前は遊び人やった。レベルは13や」と、三村くん。

 遊び人。三村くんらしいなぁ。

「どいつもこいつも小僧だな。おれが守ってやるから、ついてこい」

 はうッ。ワレスさん、カッコよすぎ。惚れるぅ〜

 ところが、蘭さんがひきとめる。
「待ってください。モンスターたちに見つからないように城を脱出できたらいいんでしょう? それなら、地下に隠し通路がある」

 あッ、あった。あった。
 あの地下にあった扉ね!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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