第80話 やっぱり泉があった

文字数 1,210文字



 たいていのダンジョンでは、ボス戦の前に回復場所がある。
 あるいは、転移魔法で街と行き来できる拠点だ。

「ああ……明るくなってきよったで。かなんわぁ。ひぇー。た、高いやんか。おれ、目つぶってよかなぁ」
「ダメだよ。シャケ。そんなことしたら落ちるよ?」
「ちゃんと歩けないなら、シャケが馬車に乗って、クマりんと代わってもらえばいいんじゃないですか?」
「せやなぁ。ほな、頼んわ」

 クマりんはここに来るまでにレベル10にまで上がっている。
 たまりんはレベル7。
 ギリギリ、フェニックス戦でも役立てるかもしれない。でも、なるべくなら僕ら四人(三人と一匹)でなんとかしたいところだ。

 三村くんとクマりんが交代して、さらに上へ上へと、岩肌を登っていく。
 小銭は拾うし、たまにモンスターとの戦闘になるが、クマりんは戦士系だから、すでにかなり強かった。
 ずっと“ためる”しかしないぽよちゃんより、ふつうに攻撃したり、仲間を呼びよせるクマりんのほうがザコ戦にはむいている。

「あっ、泉があるよ。かーくん。シャケ。ここなら馬車も入りこめるし、休憩できる」

 そう言って、蘭さんが指さしたのは、崖のあいだに広がる小さな草原だ。清水のわきだす泉がある。ボス戦前の回復の泉だと一発でわかるやつだ。

 僕らは岩壁にかこまれた原っぱで、ひと休みした。夜食に持ってきたのは、スズランちゃんが持たせてくれたバスケットだ。なかにはサンドイッチが入っていた。

「ああ、美味いね。ベーコン塩辛いけど、疲れてるからちょうどいい」
「こっちのトマトサンドも美味しいですよ」
「スズランちゃん。料理もうまいんだね」
「僕の妹か。会えるとは思ってなかったけど。きっと父上や母上も会いたいだろうな」
「そうだよね」

 泉の水がうまい。
 これ、ペットボトルに詰めて持っていったら、エリクサーのかわりにならないのかな? 泉から離れると効果が切れるのか?

 んん、うまうまとサンドイッチと泉の水を交互に味わっていると、いつのまにか僕らにまじって、変な鳥がバスケットに首をつっこんでいた。尾っぽの長い派手な色あいのニワトリみたいなやつだ。いや、むしろヒヨコ? 赤いヒヨコだ。お風呂に浮かべるアヒルちゃんみたいなやつ。

「ああ、野鳥が僕らのご飯を食べてるぅ」
「あっ、ほんとですね。珍しい鳥だなぁ。見たこともない」
「まあ、ええやん。いっぱいあるんやし」
「そうだね。けっこう可愛い顔してる。餌づけできないかなぁ」
「餌づけして、どうするんですか?」
「え? ペットにしようかなと」
「僕らといたら危険ですよ。仲間モンスターなら自力で戦えるけど、ただの野生動物はそうもいかないし」
「そっか。残念」

 お腹もいっぱいになった。
 日も昇ってきた。
 いよいよ、決戦だ。

 僕らは立ちあがった。
 このさきにある朝焼けの崖をめざして。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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