第171話 ゴーレム戦! 4
文字数 1,125文字
ゴーレムがフルスイングの体勢に入った。
このままじゃ、ナッツがやられちゃうぞ!
ナッツは立て続けに豪腕になげとばされ、石畳の上にころがったまま起きあがれないでいる。
ゴーレムが床に両こぶしをふりおろした。そのまま水平に胴体をグルッと一周——
いや、違う。
ゴーレムが止まったぞ?
ゴーレムには顔がない。目鼻も口も耳もない。でも、何かを凝視している。
僕はゴーレムの視線のさきをながめた。
倒れたナッツのカバンから、あの首飾りがこぼれおちていた。ナッツの腕輪とおそろいで作ったという、お母さんの首飾り。
「お、お、お…………」
ゴーレムが苦しみもだえる。
なくしかけた記憶をよみがえらせようと、もがいてるのか?
僕は首飾りをひろって、ゴーレムの前につきつけた。
「もうやめてください! あなたはナッツのお母さんなんでしょ?」
ゴーレムが硬直した。
まちがいない。
これはナッツのお母さんだ。
モンスターに姿を変えられて、記憶を失って、自分の息子もわからなくなって攻撃していたのだ。
「ナッツはあなたの息子だよ! もう戦わないで!」
ゴーレムはピタリと止まったまま動かない。
ナッツがふるえ声を出した。
「か……母ちゃん? ほんとに?」
「ナッツ。人間をモンスターに変身させてしまう、あの魔法の機械を君も見ただろ? お母さんはさらわれて、あの機械に入れられたんだ。でも、息子の君のことを心の奥底では、まだ覚えてる。忘れるわけないよ。それが親子の絆ってもんだよ」
ナッツはうつむいた。歯をくいしばってる。顔をそむけたのは、涙を見られないようにしたのかもしれない。
「母ちゃん。まだ生きて……」
「うん。ナッツ。だから、君はこの人を攻撃しちゃいけない。親子で戦うなんて、まちがってる」
「母ちゃんは人間に戻らないの?」
「保証はないけど、戦闘不能になれば、今まではみんな人間に戻った。僕に任せてほしい」
「う、うん……」
じつを言うと、うちの両親は僕が子どものときに交通事故で亡くなってる。京都のじいちゃんに育てられたけど、そのじいちゃんも天寿をまっとうした。
だから、世界中に家族と呼べるのは、今はもう兄の猛だけだ。それでも、僕は猛がいてくれて幸せなんだと思う。
ナッツはこんなに小さいのに、もうひとりぼっちなんだ。なんとかしてやりたい。
僕は精霊王のレプリカ剣をかかげると、ゴーレムの胸にそっと当てた。追加効果の魔法が発動した。火属性単体最強魔法の『燃えつきろ〜』がこめられているらしい。
炎がゴーレムを包んだ。
ゴーレムは静かによこたわった。
これでナッツのお母さんは助かるよね?
人間に戻るんだよね?
緊張して見つめるけれど、いつまでたっても、その変化は現れなかった。