第293話 トンネルの奥に

文字数 1,629文字



 オンドリヤさんは無事だった。
 思ってた以上に元気がありあまってる。この調子なら僕たちの助けは必要なかったかも。
 だけど、ほろ布を作ってもらうための羊毛も欲しいし、しょうがないんで、そのままトンネルをさきへ、さきへと進んでいく。

「ああ、せめてどっかの宝箱のなかに、ウールリカの羊毛入ってないかなぁ?」
「前々から不思議なんですが、宝箱って、ほかのパーティーがさきにあけてても、僕らがあけるときには中身が復活してますよね? それも魔法の力なんですね」
「ああ、そうかもねぇ。じゃないと何百年も前に、とっくに世界中の宝箱はカラッポだよねぇ」

 のんきに話しながら、歩いていた僕ら。
 なのに、急に蘭さんの顔色が変わった。

「蘭さん?」
「……このさきに、ものすごく強いモンスターがいます」
「えっ? ボス?」
「ボスもいる。けど、それだけじゃないみたい。出現モンスターが、ここまでとはまったく違う。今の僕らだと苦戦するかも……」
「えっ?」

 そんなバカな。
 つまみ食いしまくった僕の今の数値は、こうだよ?

 レベルはまだ24。
 HP368(332)『249』、MP280(252)『104』、力130(117)『64』、体力128(116)『65』、知力132(119)『14』、素早さ122(110)『54』、器用さ120(108)『21』、幸運99998(89999)。

 オリヤを出てから戦闘を四十回までは戦ってないと思うのに、コレだ。
 オリヤ到着時とくらべても、これだけ違う。

 HP330(297)『211』、MP255(230)『83』、力110(99)『44』、体力107(97)『44』、知力121(109)『3』、素早さ109(99)『41』、器用さ113(102)『14』、幸運99998(89999)。

 この僕の数値で苦戦って、それはもう出現モンスターのレベルが尋常でなく高いってことなんじゃ?

 シルキー城の悪夢がよみがえる。

 思わず立ち止まった足元には、大判の金貨が二枚、ぽとんと落ちていた。ひろいあげると二つとも一千万金貨だ。
 今の僕の貯金と所持金の総額が十億を超えたから、だいたい一度に拾う金額は一千万相当。ランダム数値なんで、じゃっかんの金額の差はあるけど、いきなり二倍ってことは、たぶん、このさきに出るのは、僕らのレベルがあと十くらいプラスされてから遭遇するはずのモンスター?

「ヤバイね。ひきかえそうか……」
「そのほうがいいです。ザコでもボスなみに強いと思う。それでもザコなら、なんとか勝てるだろうけど、一つ、ものすごく強い気配があるから、あれには勝てない」
「どんなモンスター?」
「ドラゴン……かなぁ? 腐ったような匂いがする」

 それって、さっきの火の玉グリーンの見せた幻影のなかで、エルフの里を襲ってた黒いドラゴンなんじゃないのかな?

 なんでそんなやつが、こんなとこにいるんだろう?
 一つのダンジョンのなかで出現モンスターにそれほど落差があるなんて、おかしいよ。
 シルキー城のなかに一か所、そんな場所があったっけなぁ?

 僕らは用心して止まるのに、オンドリヤさんだけが「カアーッ!」と叫んで走りだす。

「これだから、近ごろの小僧どもは役に立たんわい。わしが行ったるわぁー!」
「あっ! ちょっと、おばあさん!」
「誰がおばあさんじゃー! レデーに失礼なやっちゃのう。カアー! カアー!」

 もはや、カラス。
 やたらにカーカー発しながら、オンドリヤさんがかけていくんで、しかたなく僕らもあとを追う。

 でも、まもなく、出現モンスターの変化の理由がわかった。
 トンネルがくずれてる。
 長年の風化で天井が持ちこたえなかったんだろう。
 大きな岩やガレキに完全にふさがれて、そこからさきには進めなくなっていた。

 強いモンスターの気配はそのさきからする。
 きっとトンネルの向こうがわから入っていけるに違いない。

 ウールリカ。
 残念だけど、今その国に行くことはできないみたいだ。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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