第66話 ヤドリギのカケラよ、去れ!

文字数 1,616文字



 蘭さんの体が赤と青に交互に光る。
 鞭をかまえると、スゴイ!
 三連打だ!

 ビシッ、ビシッ、ビシッ!
 激しく皮がしなり、安藤くんを打擲(ちょうちゃく)する。
 なんだか友達にヒドイことしてる気分。
 でも、勝たないと安藤くんの目をさましてあげられない。

 一瞬、安藤くんが白目をむいた。
 ちょっと、ぽわんと黒い霧みたいなものが口からのぞく。
 僕が凝視すると、あわてたみたいに口のなかにひっこんだ。
 なんだ? 今の? 変な顔みたいなものがあったぞ?
 むむっ。今のがヤドリギのカケラかな?

 安藤くんの喉のところが不自然にふくらんで、モコモコ動いてる。
 でも、安藤くんはすぐに黒目に戻って、体勢をたてなおした。喉は……まだモコモコしてる。
 気になる……。

「ねえねえ、シャケ。ぽよちゃん。相手は素早いしさ。三人同時に攻撃しようか。自分が動けるようになったら、すぐ攻撃だよ?」
「わかった」
「キュイ!」

「ほな、行くで」

 三村くんが鉄のブーメランを投げた。
 三村くんの手がブーメランから離れるとともに、僕は走った。
 あとから、ぽよちゃんが追っかけてくるけど、僕より素早いんだよな。
 僕のわきを駆けぬけていく。

 安藤くんは三村くんのブーメランをヒラリとよけた。
 波状攻撃で、ぽよちゃんがタックル!
 安藤くんのお腹を直撃。
 安藤くんがよろめいて、一歩、二歩、あとずさったまま、ドスンと尻もちをついた。

 いいぞ!
 安藤くんは僕より背高いからね。
 これで喉元が狙いやすくなった。

 僕はすかさず、破魔の剣をふりかぶる。もちろん、(さや)をつけたままだ。友達の首、落とすわけにいかないし。

 ブンと風を切る音。
 モコモコ動く喉をめがけて、剣をふりおろす。

 それを打った瞬間、キイイイイイイイーーーンと甲高い、金属音のような、悲鳴のようなものが響きわたった。
 そして、安藤くんの口から、ぽわんとゲル状の黒いかたまりが出てきた。
 それはキュルキュルと螺旋(らせん)を描いて空に昇っていくと、ものすごい速さで、いずこへかと飛び去った。

 ヤッター!
 ヤドリギのカケラ、追いだした!


 *

 戦闘終了のいつものあれこれ。
 僕の幸運度が高すぎるんで、アイテムはほぼ必ずドロップ。
 人さらいAはポイズンダガーを、人さらいBは小さなコインを落とした。
 お金は八百円。
 経験値も八百。

 テレレレッテテー!
 あっ、ぽよちゃんがまたレベル上がった。
 レベル14かぁ。
 わが子が大きくなっていくのにも似た喜び。
 スゴイねぇ。素早さはいっきに10上がってる。ぐんぐん伸びてくな。
 この調子だと、蘭さんにも追いつくかも?

 その蘭さん。
 鞭をおさめると、縛られて放置されてる巫女姫に駆けよった。
 あっ、美女ー! そうだった。助けないと。

「ケガはない? 僕はロラン。君は僕の双子の妹だろ?」

 蘭さんが巫女姫のさるぐつわをはずし、両手を縛るロープをほどいた。

 おおーッ!
 う、麗しいーッ!
 さすが、蘭さんの双子の妹……。
 山本美月ちゃん似のめっちゃくちゃ美少女だー!
 はぁ……よかった。ここまで生きてこれてよかったぁー!

 僕はすっかりテンションアゲアゲだ。
 いそいそと、巫女姫に近づいていった。

「だ、大丈夫でしたか? あ、あの。怖くありません……でしたか? えへへ」

 巫女姫はいったん僕を見た。
 がっ!
 そのまま、きれいにスルーして、蘭さんを見つめた。

「じゃあ、あなたが、わたしのお兄さまなんですね? わたしに双子の兄がいることは聞いていました。お目にかかれて光栄です」
「僕はロラン。君は?」
「スズランです」

 うーん。なんか、ちょっと思ってたのと違うぞ?
 ま、いっか……。
 どうせ、いっつもふられるしねぇ。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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