第165話 這いよる恐怖……的な?

文字数 1,542文字



 ピトピトピトピト——
 ザアザアザアザア……。
 したたる水滴と流れる下水の音がたえず耳につく。

 なんだかなぁ。
 どうして僕らって、やたらと地下とか洞くつばっかり歩いてるんだろう?
 暗い! 暗いよ。視界が暗い。

 同じ暗さでも、ホワイトドラゴンの洞くつはさ。もっとこう神秘的なふんいきがあって、潮騒が優しく耳をくすぐったんだよね。

 なのに、なんで、ここはこんなに不気味なんだろう?
 あっ、そうか。BGMが違うからか!
 イヤな感じのやつかかってるぅー。
 ドロドロした、何かが闇のなかから這いよってくるような……。

「それにしても袋小路が多いねぇ。地図描きながらじゃないと迷うよ」
「かーくん。そっちはさっき行った道だが?」
「あっ、そうだった?」

 水路。側道。分岐点。アーチ形の天井。それを支える柱。
 どっちを見ても似て見える。

「わがチョーク持っちょうけん、印つけながら歩かや」
「うん」

 分岐する道に出るたびに、進んでいく道には斜線を一本、そこが袋小路だったときには、ひきかえしてきたときに斜線を足してバツ印にした。

「あッ! 宝箱だ。ミミックかな?」
「どげだやら」
「僕があけるよ」
「ああッ! ズルイよ。兄ちゃん。おれだって、お宝欲しい!」
「ナッツに装備できるものだったらあげるよ。僕は買えるからさ——って、魔法カード三枚セットか。赤、青、黄色。三人でわけよう」
「兄ちゃん……さっきから大金拾ってるけど、なんで?」
「あっ、これは僕の得意技だから」
「ズルイー! おれもその技、使いたいー!」
「使いたいって言われても、得意技は人それぞれ決まってるから」
「ちぇっ。おれのなんか、てんで金儲けにならないや」

 えーと、ナッツの得意技って、ナッツだっけ。

「ナッツの得意技の“ナッツ”って、なんなの?」
「戦闘中にナッツ食ったら、全ステータスが二倍になる」
「えッ?」
「あっ、戦闘中以外でも、力だけは倍になるよ」

 なんで、それをさっきの戦闘前に言っといてくれなかったんだ。ミックスナッツの袋、持ってたのに。

「じゃあ、天涯孤独は?」
「えーと、おれ以外のパーティーメンバーが、みんな戦闘不能になったときに、全ステータスが三倍になる」
「さ、三倍っ?」
「うん。三倍」

「じゃ、じゃあさ。もう一個、得意技あったよね? あれは?」
「ああ。思い出ね。父ちゃんや母ちゃんが生きてたころのさ。楽しいことを思いだすと、全ステータスが二倍になる」
「たしか、魔法も全ステータスが上がるんだよね?」
「うん。早く大人になりた〜いね。あれは戦闘中のみで、1.3倍」
「まさか、みんな重ねがけできたりする?」
「するよ? なんで?」

 なんで、じゃないよ。
 二倍の二倍の三倍の1.3倍だよ?
 ナッツの力が25だから、二倍で50、さらに二倍で100、三倍なら300だ。魔法かければ、390。

「えー! 僕らの仲間で一番、力の強いシャケだって、レベル20で115なんだよ? 戦士の職業補正が入っても130。ナッツの重ねがけマックスなら、それの三倍だからね? さっき言っといてくれたら、ゴーレム戦、楽勝できたのに」
「ナッツないもん」
「……ほら。これ、あげるから。戦闘のときに大事に使ってね。今はこれ一袋しか持ってないから」

 僕はミックスナッツの袋をナッツに手渡した。

「えっ? いいの? くれるの? 食っちゃうよ?」
「ダメ。ダメ。戦闘でピンチのときだけにしてよ」
「ええーっ?」
「ええーっ、じゃないよ? 今はそれしかないんだから」

 そのとき、僕は背後に気配を感じた。

「ん——?」

 何かが……這いよってくる?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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