第334話 そのころの城内?
文字数 1,267文字
ミルキー城のとある場所。
魔法の鏡をのぞく人物。
「ほほほ。おもしろいエサが釣れましたね。これでまた楽しく料理できますよ。そうは思いませんか? ユダ」
「…………」
ユダ、と呼びかけられたのは、黒竜の皮のマントをかぶったラーメン髪の美青年。
もちろん、猛だ。
えーと、これまでずっと僕の視点で書いてきたんだけど、話の進行上、ちょっと猛の視点を借りてみることにする。これは、あとになって猛から聞いたことをもとに想像をまじえて書いてる。
物語は一人称を超えてきた!
「あんたも悪趣味だな。今度は何をするつもりだ? ヤドリギ」
猛は興味なさげなそぶりで、しれっとたずねる。
ヤドリギは鏡を見つめたまま、ほほっと、いつもの薄ら寒い笑い声をもらした。
何が寒いと言って、四天王でこの見ためのくせに、うっすらとオネエ感をただよわせてくるところだ。たまに猛の手をにぎろうとすることもあって、正直、キモイ。
「勇者が城に帰ってきたようですね。お友達をたくさん、ひきつれて。これは歓迎してさしあげなければなりますまい。はたして兄と弟で、どんな茶番を演じてくれるものでしょう。ほほほ……」
数日前、国境の火竜が倒されたことはわかっていた。いずれ来るとは予測していたが、けっこう早かった。
ヤドリギが卑怯な手段を使って、途中の村で足止めしていたが、あまり効果はなかったようだ。
「ふん。勇者か。まださほどの強敵じゃない。今のうちに確実にしとめておけと、あのかたからのご命令だ」と、猛は四天王らしく皮肉な調子を作って言った。
「委細承知ですよ。わたくしめにお任せあれ——と、あのかたには伝えてください。最高のお芝居を用意してありますからね。さあ、勇者たち。楽しませておくれ。わたくしの可愛いマリオネット。ほほ」
寒い。じんましんが出そうだ。
猛は限界を感じて立ちあがった。
ついでに、ヤドリギがのぞいている鏡をうしろから見てやろうと思ったのだ。
そこに映っている姿を見て、猛はギョッとした。
勇者と言うから、てっきり蘭が映ってると思っていた。なのに、映されているのは蘭ではなかった。
かーくんだ。
かーくんとアンドーとイケノが兵隊たちに囲まれて、ひっくくられていく。
なぜかはわからない。
わからないが、ヤドリギは薫を勇者だと勘違いしている。
そう言えば、以前、ゴドバと話したときも、勇者を捕まえたと言っていたのに、その人相風体は、かーくんらしく思えた。勇者をぽよぽよにしてやったと豪語していたが、どうやら、それはなんらかの手違いだったようだ。
「おや? どうしました? ユダ」
わずかに首をまわし、ヤドリギが猛に視線を送ってくる。
猛は平静をとりつくろった。
「いや、別に。たしかに伝言した。おれはもう行く」
「あなたもゆっくりお芝居を見物していけばいいのに」
「そんなヒマはない」
「あらん。つれないのねぇ」
猛は無言で去った。
いったい、ヤドリギは、なぜ、かーくんを勇者だと思いこんでいるのだろう?
あるいは、そこに重大な秘密が隠されているのかもしれないと考えながら……。