第61話 子グマちゃんが仲間に

文字数 1,689文字



 チャラララッチャッチャ〜
 と明るい音楽で戦闘が終わる。
 僕と三村くんとぽよちゃんはレベルアップした。
 さらには、コロンとテディーキングの頭から王冠がころがって、ドロップアイテムになった。勝利報酬は破格の千円。
 この段階では、まだ敵から手に入るお金は百円とか二百円とかの単位だ。へたすると五十円。
 よほどの強敵だったんだとわかる。

「ロラン、大丈夫だったの? よくつぶされなかったね?」
「精霊王のよろいを着てたから助かったんです。瀕死だけど、ギリギリもちました」
「ほんとだ。HP12しか残ってない」

 HPが赤字で表示されてる。
 僕は急いで「もっと元気になれ〜」を二回くりかえした。蘭さんの頰に赤みが戻ってくる。

「よかった。治った」
「ええ、もう大丈夫。子グマちゃんは要注意ですね」

 僕らが「この王冠、誰が装備できるんだろう?」とか話しながら、立ち去ろうとしたときだ。

 うしろから、ムクっと何かが起きあがり、ついてくる。
 子グマちゃんだ。
 ちぎれた耳と片腕を持って、涙を浮かべている。

「あっ、魅了、使っちゃったからかな。魅了を使うと戦闘は有利になるんですけど、そのあと必ずモンスターがストーカー化するので、あんまり使わないようにしてたんですよ」

 そうだったのか。
 それにしても、子グマちゃんの哀れな姿。これはヒドイ。ぬいぐるみ虐待(ぎゃくたい)だ。誰だ? こんなヒドイことしたの……って、僕らなんだけど。

 ふうっとため息をついて、三村くんが大きなバッグを背中からおろすと、針と糸をとりだした。

「このクマ、直したってもええか?」
「いいですよ。もう襲ってこないと思いますし」


 *

 三村くんは針と糸を手にとり、まるで魔法のようにスイスイと、子グマちゃんの耳と片腕を修復した。ついでにお腹の穴にも花柄のアップリケをつける。

「ほら、これでええやろ。もとどおりや」

 子グマちゃんはすごく喜んでいる。

 そうだった。三村くんはもともと現実世界で、フィギュアの製作とかしていた。今はビスクドール作りの修行中だ。それがこの世界で得意技になってないはずがない。

「シャケの得意技、人形作りとか?」
「せや。人形師や。あと水泳やろ。ボディーランゲージ」
「うん。やっぱり、向こうでの特技がそのまま得意技になってるね」
「向こう?」
「あっ、なんでもない」
「ふうん? ほら、自作の人形を売り物にしとるんや。けっこう売れるんやで」

 大きなバッグの中身の正体は、大量の人形だった。武器商人が本業じゃなかったのか。

「それはともかく、子グマちゃん、どうしますか? なんか、ついてきたそうな顔してるんですけど」
「ストーカー製造機って、けっきょく魔物使いと同じなんだよね? 魔物を仲間にするスキルなんでしょ?」

 すると、蘭さんと三村くんは首をひねった。
「魔物使いってなんですか?」
「そないな技、聞いたこともないで。職業なんか?」

 そうか。この世界には魔物使いって職業がないんだ。僕の好きなあのゲームでも、Ⅴのときに初めて、それに該当するものが出てきたけど、主人公固有の個性にすぎなかった。
 この世界では、蘭さんにしか使えない技なんだ。

「ああ、うん。なんでもない。子グマちゃんは仲間呼びして巨大化できるんなら、すごく強い味方になるよ。つれていこう」
「そうですね。でも人数が今、多いから」
「馬車で待たせればええんちゃう?」と、三村くん。
「そうですね。じゃあ、子グマちゃん。マーダーの神殿に置いてある僕らの馬車で待っててくれる?」

 子グマちゃんがうなずいた。

「あっ、ちょっと待って。もしかして、これ、子グマちゃんが装備できるかも」

 テディーキングの王冠、やっぱり、子グマちゃんにちょうどいい。
 なんかプリティーなモンスターばっかり仲間になるなぁ。まあ、害虫と旅したくないもんな。


 ——子グマちゃんが仲間になった。子グマちゃんは馬車まで走っていった。


 馬車、買っといてよかった。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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