第18話 慈恩堂で棚卸し

文字数 798文字

5月19日

ののかにもらったマスクが、さっそく役に立っている。

「真久部さーん、埃がすごいんですけど」

以前棚卸を手伝った時に掃除したはずなんだけど、たった数ヶ月でどうやったらこんだけ埃が溜まるんだ?

「んー、寄って来るからねぇ」

高さ一メートルほどもある木彫りの仏像を軽々と運び出しながら、この古道具屋(古美術店?)・慈恩堂の店主は答える。

「寄って来るって、埃が?」

「そうだねぇ、埃だけじゃないけど」

え?
埃以外に何が寄って来るってーの?

……
……

あまり考えないようにしておこう。
うん、そうだよ。埃って、どこからともなく降ってくるもんなんだ。さっきから何か部屋の隅っこの暗がりがもやもやしてるように見えるけど、あれも埃なんだよ。ただのチンダル現象さ!

中学生(だったと思う)の頃、理科の時間に習った言葉を脳の引き出しから強引に引っ張り出してきて、無理矢理納得することにする。

だってさ、慈恩堂店内っていつも何か変なんだ。どこがどう、って説明出来ないけど、変なんだ。誰もいないところから声が聞こえてきたり、視界の隅で何かが動いたり、絶対気のせいなんだと思うけど、ぶ、不気味なんだよ!

さっきなんか、いきなり(りん)の音みたいなのが聞こえたんだぜ。真久部さんに言ったら、「んー、いつものことだし」と軽く流してくれた。

……いいけど。いいことにしておくけど。

本当はここの依頼はあんまり受けたくないんだ。けど、真久部さん、気前がいいんだよなぁ……。

明日は店番も頼まれてる。それも破格の報酬でだ。誰ひとりとして最後まで全う出来なかったというそれを、俺が一度こなしてしまったもんだから、頼りにしてくれてるらしいんだ。

顧客に信頼されるのはうれしい。うれしいけどもさ。

だけど。

ののか。パパ、この店でひとりきりになるの、ちょっと怖いかもしれない。
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