第140話 鳴神月の護り刀 9
文字数 2,056文字
えー……。あんまり怪しい道具に好かれたくないなぁ。無関心くらいがありがたいんだけど。そんなことを思いつつ、何を言ったらいいのかわからなくて無言になっていると。
「まあ、うちの店の道具たちはだいたい何でも屋さんのことが好きですけどね。お陰で安心して店の番をお願いできます」
頼りにしてるんですよと、にーっこり笑う真久部さん。引きつりそうになりつつも、なんとか笑みを返す俺。
「ご、ご贔屓ありがとうございます……」
き、嫌われるよりは、いいのかなぁ? 道具たちに好かれないと、うちの店番は難しいみたいなんですよねぇ、って前に真久部さん嘆いてたし。慈恩堂の仕事は割りがいいから、俺としてもいい関係でいたいと思ってるけど……。
「だけどこの──“御握丸”」
すまん、“御握丸”よ。変な名前付けちゃって。
「今日はどうして店の外に勝手に現れたんですか? そりゃまあ、猫を救出するにはとても助かったんですけど──」
ソーイングセットの鋏なんて小さいからなぁ。暴れる猫に絡まる紐をあんなもんでちまちま削ってたら、猫の爪で俺の手まで削られたかも……。
「今まで、そのう……ほら、真久部さん、いろいろ仕事くれるでしょ? 店番以外にも、届け物とか」
「そうですねぇ。助かってますよ」
真久部さんがまた胡散臭い笑みを……。ま、いいや。先続けよ。本当は続けたくないんだけどさぁ。
「その道中、行き帰りはともかく、後から何かこう、あからさまに変なことってこれまでなかったのに、何で今回だけ──」
そう、たとえ手荷物で運んでる仏像から寝息が聞こえようが、鯉の自在置物が竜に成るところをうっかり見てしまおうが、その後にそいつらが俺の目の前に現れたりするようなこと、なかったんだ。
「ああ、それですか」
真久部さんは申しわけなさそうな顔をした。
「昨日、この“御握丸”が何でも屋さんの血を浴びたでしょう?」
「ひっ! 真久部さん、そういう言い方は」
やめて。怖いから。まるで妖刀みたい……って、いや、こいつってじゅうぶん妖刀かも……。俺の顔色を見てか、すみません、と真久部さんが困ったように微笑む。
「まあ。それで何でも屋さんの気配がわかったんでしょうね。で、気に入った人間だから、驚かしついでにちょっと助けてやるか、みたいな感じで」
「そんなんで、いいんですか?」
いいのか、そんな軽いノリで怪異を起こしても! 俺は問いたい、この慈恩堂の店主と道具たちに! ──問わないけど、怖いから。
「よくないですよ」
否定してくれてホッとした。
「これはもう**が育ちすぎて、手に負えないと思いました」
「……」
そうだよなぁ、伯父さんのアレ に喰わせようとかぶつぶつ言ってたもんなぁ……。音がぐにゃんとなって聞こえない部分はスルー、スルー。
「だけど、何でも屋さんも“御握丸”になる前の“麒麟の守”のこと、気に掛けてくれてたみたいだから……、閃いたんだ、これはもう何でも屋さんの護り刀にして、縛り付けてしまえばいい! って」
「え……」
「“麒麟の守”も、わざわざ妙なちょっかい出すくらい何でも屋さんのこと気に入ってたんだし、これでいい結果になったと思うんだよ、伯父のアレに**を喰われて性 をなくすことに比べたら。何でも屋さんだって滅多にないような護り刀を得られることになるし、これぞwin-winの関係──」
「ちょ、真久部さん。俺、そんな覚えないですよ?」
気に掛けてた、か? たしかにあんまり怖がってなかったかもしれないけど、今日はびっくりしたし、厄介なことになったな、って──。
「何でも屋さん言ったでしょ? 鞘の麒麟が泣いてるように見えるって。僕が伯父のアレに喰わせようとか呟いてたとき」
そうだったかも……。なんか、たすけてーって聞こえてきそうだった。伯父さんの鯉のループタイ、ここの道具たちに怖がられてるんだなぁ、って思ってた。
「“麒麟の守”がそんなふうに見えた人は、今まで誰一人としていなかった。ほとんどの人は、怖いとかふてぶてしいとか凶悪面とか──」
ちなみに、僕はふてぶてしい派、といらない情報をくれる。
「……」
「ねえ、何でも屋さん。古道具の弱音を聞き分けられるのは、その道具に魅せられているか──あるいはそいつに気に入られて、かつ、同時に気にかけている人間だけなんだよ……」
相思相愛みたいなものかな、と真久部さんは首を傾げる。
「だからね、“御握丸”を護り刀として、側に置いてやってください」
そして主として、悪さをしないよう言い聞かせてください、と頭を下げる。
「え、え、でも──」
“御握丸”、今日役に立ってくれたし、見つかったら不味いときには姿を消してくれてたから嫌いじゃない、嫌いじゃないけど!
「護り刀にするにはいろいろ手順はあれど、主の血を浴びさせるのが一番手っ取り早いからねぇ」
いやー!
「まあ、うちの店の道具たちはだいたい何でも屋さんのことが好きですけどね。お陰で安心して店の番をお願いできます」
頼りにしてるんですよと、にーっこり笑う真久部さん。引きつりそうになりつつも、なんとか笑みを返す俺。
「ご、ご贔屓ありがとうございます……」
き、嫌われるよりは、いいのかなぁ? 道具たちに好かれないと、うちの店番は難しいみたいなんですよねぇ、って前に真久部さん嘆いてたし。慈恩堂の仕事は割りがいいから、俺としてもいい関係でいたいと思ってるけど……。
「だけどこの──“御握丸”」
すまん、“御握丸”よ。変な名前付けちゃって。
「今日はどうして店の外に勝手に現れたんですか? そりゃまあ、猫を救出するにはとても助かったんですけど──」
ソーイングセットの鋏なんて小さいからなぁ。暴れる猫に絡まる紐をあんなもんでちまちま削ってたら、猫の爪で俺の手まで削られたかも……。
「今まで、そのう……ほら、真久部さん、いろいろ仕事くれるでしょ? 店番以外にも、届け物とか」
「そうですねぇ。助かってますよ」
真久部さんがまた胡散臭い笑みを……。ま、いいや。先続けよ。本当は続けたくないんだけどさぁ。
「その道中、行き帰りはともかく、後から何かこう、あからさまに変なことってこれまでなかったのに、何で今回だけ──」
そう、たとえ手荷物で運んでる仏像から寝息が聞こえようが、鯉の自在置物が竜に成るところをうっかり見てしまおうが、その後にそいつらが俺の目の前に現れたりするようなこと、なかったんだ。
「ああ、それですか」
真久部さんは申しわけなさそうな顔をした。
「昨日、この“御握丸”が何でも屋さんの血を浴びたでしょう?」
「ひっ! 真久部さん、そういう言い方は」
やめて。怖いから。まるで妖刀みたい……って、いや、こいつってじゅうぶん妖刀かも……。俺の顔色を見てか、すみません、と真久部さんが困ったように微笑む。
「まあ。それで何でも屋さんの気配がわかったんでしょうね。で、気に入った人間だから、驚かしついでにちょっと助けてやるか、みたいな感じで」
「そんなんで、いいんですか?」
いいのか、そんな軽いノリで怪異を起こしても! 俺は問いたい、この慈恩堂の店主と道具たちに! ──問わないけど、怖いから。
「よくないですよ」
否定してくれてホッとした。
「これはもう**が育ちすぎて、手に負えないと思いました」
「……」
そうだよなぁ、伯父さんの
「だけど、何でも屋さんも“御握丸”になる前の“麒麟の守”のこと、気に掛けてくれてたみたいだから……、閃いたんだ、これはもう何でも屋さんの護り刀にして、縛り付けてしまえばいい! って」
「え……」
「“麒麟の守”も、わざわざ妙なちょっかい出すくらい何でも屋さんのこと気に入ってたんだし、これでいい結果になったと思うんだよ、伯父のアレに**を喰われて
「ちょ、真久部さん。俺、そんな覚えないですよ?」
気に掛けてた、か? たしかにあんまり怖がってなかったかもしれないけど、今日はびっくりしたし、厄介なことになったな、って──。
「何でも屋さん言ったでしょ? 鞘の麒麟が泣いてるように見えるって。僕が伯父のアレに喰わせようとか呟いてたとき」
そうだったかも……。なんか、たすけてーって聞こえてきそうだった。伯父さんの鯉のループタイ、ここの道具たちに怖がられてるんだなぁ、って思ってた。
「“麒麟の守”がそんなふうに見えた人は、今まで誰一人としていなかった。ほとんどの人は、怖いとかふてぶてしいとか凶悪面とか──」
ちなみに、僕はふてぶてしい派、といらない情報をくれる。
「……」
「ねえ、何でも屋さん。古道具の弱音を聞き分けられるのは、その道具に魅せられているか──あるいはそいつに気に入られて、かつ、同時に気にかけている人間だけなんだよ……」
相思相愛みたいなものかな、と真久部さんは首を傾げる。
「だからね、“御握丸”を護り刀として、側に置いてやってください」
そして主として、悪さをしないよう言い聞かせてください、と頭を下げる。
「え、え、でも──」
“御握丸”、今日役に立ってくれたし、見つかったら不味いときには姿を消してくれてたから嫌いじゃない、嫌いじゃないけど!
「護り刀にするにはいろいろ手順はあれど、主の血を浴びさせるのが一番手っ取り早いからねぇ」
いやー!