第253話 “泥棒製造機”と呼ばれた理由
文字数 1,633文字
「もしかして、こういうことですか? 『蔵が騒ぐからには、たった今、何かが盗まれたに違いない』って。家鳴りの最中 、慌てて現場に駆けつけてみれば、そこに叔父さん──自分の弟がいる。だから弟が何か盗んだんだ、って思い込んだ……」
俺もこれまで二回ほどあの蔵に入ったけど、中には大物小物、色んなものが雑多に詰め込まれていた。ほとんどは箱入りだけどたまに裸のもあったりして、そこからひとつくらい何かが消えても、蔵本人(?)以外にはわからないと思う。
「たとえば撒き散らされたビーズの、一粒くらいが無くなってもわからないみたいに、何が盗られたのかわからないけど、何かは確実に盗まれたって考えたんだとしたら──」
「ビーズ一粒、ですか……」
細かいですよね、と真久部さんは相槌を打ってくれる。
「普通はそんなの、よっぽどきちんと管理してるとかじゃないかぎり、無くなっても気づかないし、証拠の品でも出て来ないかぎり、他人に疑いをかけられない。でも、この場合は“悪魔の証明”というか……」
だって、蔵が騒ぐから。それまで蔵が騒いだときは、必ず何かが盗み出されてたから。
「そうですねぇ……」
うなずいて、万引きゲートに引っかかってしまったみたいなものだものねぇ、と言う。
「疑いの目で見られてしまうのは否めない。叔父さんと家神様のせいで、見えない金魚が逃げてしまったとしても、そんなのは人間からすれば誤作動の範囲なんだけど」
「疑いを晴らすのは、難しいですよね……」
全てはもう遠い過去の、俺は顔も知らない人のことなんだけど。甥っ子のために一所懸命だったのに、と思うと心が塞ぐ。
そんな俺に、ふわっと微笑むような気配がして、言葉が続く。
「でもね、その場には当時の家長だった御祖父様も駆け付けたはずなんです──。だから疑いは、間もなく晴れたと推測しますよ」
「そうなんですか!」
思わずパッと顔を上げると、真久部さんの軽く笑んだ瞳と出会う。
「ええ。蔵の家鳴りを収めるには、鍵を管理する家長が一喝する必要があるので……何でも屋さんも、同じような場面に出会ったことがあるでしょう?」
「そういえば……」
二度目の水無瀬家訪問の折り。水無瀬さんと一緒に収蔵物整理の前段階、ブロック分けをしつつ段ボールインデックスの設置をしてたら、長持ちに入ってた呪物……なんてその時は知りもしなかったけど、招き猫を見つけて──気がついたら二人とも、知らない間に中にあったはずの箱を抱えて、外に立っていた。
当然のことながら、蔵は騒いだけど、水無瀬さんの苛立ち混じりの一喝で静かになったっんだ。
「あのとき水無瀬さん、『儂は当主じゃ!』って蔵に向かって叫んでました。──訳のわからないことがあって、なのにあんな家鳴りが起こって不気味で、逆ギレモードに近かったと思いますけど……」
正しい対処になってたんですね、と言うと、偶然でしょうがね、とうなずく。
「御父君の代で、代々伝えられてきた口伝が途切れていたようですから」
「……」
良かったぁ、水無瀬さんがキレてくれて。そうでなけりゃあの家鳴り、いつまで続いていたことやら。真久部さんが検証するまで収まらなかったかもしれない。
いくら何でも、それは御近所迷惑──というか、『局地地震?』とかで大騒ぎになってしまう。
「疑いは、晴れたはず。それでも御父君が、そこに入れば誰でも泥棒になってしまう“泥棒製造機”と蔵を呼んだのには、一応、それなりの理由があるようなんですよ」
「え? それはどんな?」
勢い込んでたずねると、真久部さんは読めない笑みに微妙な影を落とす。次の言葉まで少し間があった。
「何でも屋さんは知らないでしょうけど──水無瀬さんの御父君と叔父さんの名前ね。紘一と紘二というんです」
コウイチとコウジ? 連番タイプの名前だなぁ。だけど、それがどうしたっていうんだろう?
「ああ、似た名前だけど、双子ではないそうです。彼らは一つ違いの兄弟だったとか」
無意識にそう考えた俺の心を、読んだように真久部さんは言った。
俺もこれまで二回ほどあの蔵に入ったけど、中には大物小物、色んなものが雑多に詰め込まれていた。ほとんどは箱入りだけどたまに裸のもあったりして、そこからひとつくらい何かが消えても、蔵本人(?)以外にはわからないと思う。
「たとえば撒き散らされたビーズの、一粒くらいが無くなってもわからないみたいに、何が盗られたのかわからないけど、何かは確実に盗まれたって考えたんだとしたら──」
「ビーズ一粒、ですか……」
細かいですよね、と真久部さんは相槌を打ってくれる。
「普通はそんなの、よっぽどきちんと管理してるとかじゃないかぎり、無くなっても気づかないし、証拠の品でも出て来ないかぎり、他人に疑いをかけられない。でも、この場合は“悪魔の証明”というか……」
だって、蔵が騒ぐから。それまで蔵が騒いだときは、必ず何かが盗み出されてたから。
「そうですねぇ……」
うなずいて、万引きゲートに引っかかってしまったみたいなものだものねぇ、と言う。
「疑いの目で見られてしまうのは否めない。叔父さんと家神様のせいで、見えない金魚が逃げてしまったとしても、そんなのは人間からすれば誤作動の範囲なんだけど」
「疑いを晴らすのは、難しいですよね……」
全てはもう遠い過去の、俺は顔も知らない人のことなんだけど。甥っ子のために一所懸命だったのに、と思うと心が塞ぐ。
そんな俺に、ふわっと微笑むような気配がして、言葉が続く。
「でもね、その場には当時の家長だった御祖父様も駆け付けたはずなんです──。だから疑いは、間もなく晴れたと推測しますよ」
「そうなんですか!」
思わずパッと顔を上げると、真久部さんの軽く笑んだ瞳と出会う。
「ええ。蔵の家鳴りを収めるには、鍵を管理する家長が一喝する必要があるので……何でも屋さんも、同じような場面に出会ったことがあるでしょう?」
「そういえば……」
二度目の水無瀬家訪問の折り。水無瀬さんと一緒に収蔵物整理の前段階、ブロック分けをしつつ段ボールインデックスの設置をしてたら、長持ちに入ってた呪物……なんてその時は知りもしなかったけど、招き猫を見つけて──気がついたら二人とも、知らない間に中にあったはずの箱を抱えて、外に立っていた。
当然のことながら、蔵は騒いだけど、水無瀬さんの苛立ち混じりの一喝で静かになったっんだ。
「あのとき水無瀬さん、『儂は当主じゃ!』って蔵に向かって叫んでました。──訳のわからないことがあって、なのにあんな家鳴りが起こって不気味で、逆ギレモードに近かったと思いますけど……」
正しい対処になってたんですね、と言うと、偶然でしょうがね、とうなずく。
「御父君の代で、代々伝えられてきた口伝が途切れていたようですから」
「……」
良かったぁ、水無瀬さんがキレてくれて。そうでなけりゃあの家鳴り、いつまで続いていたことやら。真久部さんが検証するまで収まらなかったかもしれない。
いくら何でも、それは御近所迷惑──というか、『局地地震?』とかで大騒ぎになってしまう。
「疑いは、晴れたはず。それでも御父君が、そこに入れば誰でも泥棒になってしまう“泥棒製造機”と蔵を呼んだのには、一応、それなりの理由があるようなんですよ」
「え? それはどんな?」
勢い込んでたずねると、真久部さんは読めない笑みに微妙な影を落とす。次の言葉まで少し間があった。
「何でも屋さんは知らないでしょうけど──水無瀬さんの御父君と叔父さんの名前ね。紘一と紘二というんです」
コウイチとコウジ? 連番タイプの名前だなぁ。だけど、それがどうしたっていうんだろう?
「ああ、似た名前だけど、双子ではないそうです。彼らは一つ違いの兄弟だったとか」
無意識にそう考えた俺の心を、読んだように真久部さんは言った。