第1話 新しいお得意様、ゲットだぜ!

文字数 913文字

駅裏の地味な商店街──。

ビルの狭間の階段降り口半地下の、これまた地味な看板を見落としたら、古美術雑貨取扱店慈恩堂を見つけるのは難しいだろう。……俺は見落とした。で、しばらくその辺りをさまよってしまった。

俺の仕事は何でも屋。これから店の品物の棚卸を手伝うことになっている。

慈恩堂、入り口は狭いのに店内は結構広い。が、骨董品がそれこそ山と積まれているので、やはり狭い。うーん、どっちなんだ、俺。どうでもいいけど、一日で終わるのか、これって。




すごい。一日で終わった。PCで在庫管理しているらしく、渡された目録を俺が読み上げ、店主の真久部さんがモノを確認するという形で、暗くなる前には全部終わってしまった。こういう仕事の人は、記憶力もいいんだろう。置き場所もだいたい把握しているようだった。

余った時間で、埃払いをした。空気清浄機を最強にして、大きなものにはハタキをかける。真久部さんは今、壷収拾に力を入れているらしく、金属製、陶製、沢山種類のある中で、特に白磁の壷を注意深く磨いていた。

壷一つでウン百万とか聞いてたので、俺は触るのが怖かった。
貧乏人は哀しいね。ふっ……。




昨日、棚卸アシスタントの帰り際、仕事料と共に慈恩堂店主にもらった謎の置物。

お地蔵さんのような、道祖神のような、恵比寿様のような……掌サイズの。

分からん。何だろう、これ。ちょっと不気味だ。良く働いてくれたからチップ代わりだと店主は言っていたけれど、実は捨てるのが面倒だったとかじゃないだろうな。

「幸運のお守りですよ」って、本当か? 見るたび微妙に違う顔に見えるような気がするんだけど。呪いの人形って言われた方がまだしっくり来るぞ。まあ、単に光の当たり具合によって、そう見えるだけなんだろうけどさ。

途中で捨てて帰ろうかと思ったが、とりあえず、今は壊れかけのテレビの上に置いてある。

店主の真久部さん、これを渡してくれつつ、「また、虫干しの頃にお願いしますよ」って言ってたんだよな。それって今回の俺の仕事ぶりが気に入ってもらえたってことだろうし……。

まあいいや。新しいお得意様、ゲットだぜ! やったね、俺!
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