第242話 あちら側に好かれやすい子

文字数 1,144文字

「視えて、気づいて招いてしまうから、悪いモノたちの影響を受けやすく、だけど“力”が強いからこそ、家宝の皿から抜け出した金魚の姿もよく視えた。あちらの世界からちょっかいを掛けてくる雑魚たちと、こちらの世界に本体をもち、水無瀬家代々の尊崇を受けていた金魚は格が違う。しかも護衛対象(・・・・)にしっかり認識されているのだから、そのぶん及ぼせる影響の強さも違う」

幼い水無瀬さんが夢うつつに見たように、金魚がそいつらを片っ端から蹴散らしていたんだろうなぁ、と俺はその光景を簡単に想像できるような気がした。

「叔父さんが一緒だったのは、たぶん、叔父さんのほうが甥っ子より“力”が強かったから。だから金魚のサポートをしつつ、甥っ子がそれ以上に深淵をのぞいてしまわないように、視て認識して繋げて道を作ってしまわないようにしていた……そうしないと、きりがない状態だったんでしょう」

無自覚に、無意識に、幼い水無瀬さんは悪いものを自分の周囲に招き寄せていた。それは本当に危ない状況だったはずです、と真久部さんは続ける。

「そのたびに、熱を出す、魘される、みるみる身体が弱ってあちらの世界に近くなってしまう。いつ連れていかれるか──命を失うか、心を失うか……。視えてしまうぶん、叔父さんの心労はご両親より深かったかもしれません」

歌曲『魔王』の中に、登場人物は父と子、父には視えない魔王とその娘しか出て来ないけれど。もしもそこに全てが視えてしまう第三者がいたら、気が揉めて歯がゆくて、しようがなかっただろうな。それが叔父さんのような立場の人だったら、可愛い甥が連れていかれようとするのを、必死で阻止しようとするだろう。でも──。

「視えない人にそんな話をしても、何ふざけてるんだ、って怒られるだけならまだいいけど、怒って、そのまま遠ざけられてしまう可能性があるって、さっきも真久部さん、言ってましたもんね。そうなったら、傍で護ることもできなくなる……」

水無瀬家の中でたった独り、幼い甥っ子が病弱な理由、その原因を知っていた叔父さん。誰にも相談できず、キツかっただろうな。自分も身体が弱いのに……。

「そうですね」

真久部さんはうなずいた。

「僕は正直、金魚だけ、叔父さんだけだったら、幼い水無瀬さんを救うことはできなかったと感じています。“力”を持つ子供の中でも、特にあちら側のものたちに好かれやすい性質の子供がたまにいるようで、水無瀬さんはまさにそれだったんでしょう」

そういう性質の子は、運が悪いと、気に入られすぎてあちら側のものたちを無数に招き寄せてしまい、周囲の大人にまで悪い影響を及ぼしてしまうのだという。

「それは“力”の強弱に関係ないようで、好かれる理由もはっきりしません。理由がはっきりしないので、対策のしようもないんです」
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