第25話 序 猫のチャーちゃん鈴鳴らす

文字数 734文字

4月5日


今日は昨日に比べて冷える。朝からずっと曇りっぱなしではっきりしない天気だったけど、夕方から晴れてきた。

「空が青いなあ、伝さん」
「おん!」

こんな夕べは、散歩するのが気持ちいい。グレートデンの伝さんも楽しそうだ。俺の勝手に決めた「犬の散歩・公園めぐりコース」を軽く走ると、軽快な足音がついて来る。

夕空晴れて、春風吹き。月影落ちて──って、月見えないや。今の季節に鈴虫いないしなぁ。

そう思ったとたん、聞こえてくる鈴の音。ちりちりちりちりちりんちりん。

公園出入り口の四角い車止めの上を、飛び歩いているのはシャム柄の猫、チャーちゃんだ。チャーちゃんめ、俺の考えを読んでたんじゃあるまいな? じっと見てると「にゃ」と鳴いてそこに座り、何か用? と言うように俺と伝さんを見る。

「おふふん」

伝さんがチャーちゃんの匂いを嗅いでも知らん顔。自分の何倍も大きい犬に近寄られても動じないとは、大物だな、チャーちゃん。伝さんは犬でも猫でも小さい子が好きだから、チャーちゃんもそれが分かるのかもしれないな。

しばし異種間のいささか一方的な交流を微笑ましく眺めていると、チャーちゃんはまた「にゃ」と鳴いて、首輪の鈴をちりちり鳴らしながら去って行った。家に戻るらしい。半野良みたいなチャーちゃんだけど、飼い主さんの家から十メートルも離れないという話だ。

名残惜しそうにチャーちゃんを見送る伝さん。その鼻に、満開の桜の花びらがひらりと落ちた。

夕空晴れて、春風吹き。花びら落ちて、鈴の音去る。

落ち込むな、伝さん。この時間なら、向こうの方からビーグルのケンちゃんが飼い主の鷲尾さんと一緒に歩いてくるぞ。ケンちゃんはチャーちゃんよりも社交的だ。頑張れ!
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