222 ______________________ ‐2nd part‐

文字数 1,189文字

 ……そこでふと、我が身を見なおしてみれば、今日ミラノが染めなおしてくれた、例のスパイダーニットをオレは着ていた。

 それが引き金となって、ミラノに泣きながらお礼を言っていた記憶が蘇ってくるけれど、オレって、もしかして普段の反動で泣き上戸なのか?

 でも、それは悲しさではなく、嬉し泣きってことだろうから、泣ける内に入らないと言えば入らないかな……。

 LDに戻り、ドア脇の壁に嵌め込まれている姿見の前へ、スパイダーニットの出来映えをチェックしに行く。
 記憶では曖昧だし、着ていてはイマイチよくわからないから。

 オレのために、わざわざミラノが半日がかりでやってくれた力作だから、どんなでも、とり敢えず喜んで、大事に着させてもらうんだけれど──うぉっ! これ、本当にミラノがやったのかぁ?

 巧いって言うか、ちゃんと仕上がってるって言うか、凄ぇいいじゃんっ。
 ……やっぱ僊河青蓮の娘、天賦のセンスってヤツを認めざるを得ない。

 しっかし、ミラノってガチに何者なんだぁ? 判明している正体だけでは、底まで全く量り知れない。
 ホント、オレの手には、負いきれそうもないミステリアスネス……。

 ニットの出来に尻毛を毟られ、鏡の中で呆けていたオレを、おハルがドアを開けることでシャンとさせてくれた。
 それだけでなく、思いきり怪訝そうな表情で、オレをまた別の現実へと追い立て始める。

「何だいこんなトコで? 余醒に任せて私を襲おうってかい?」

「違うって、このニットの染めあがりをチェックしてただけだよ。その開けたドアの裏に、鏡があったでしょうが」

「だから冗談だワ。慌てふためいちゃって、カワイ~やねぇ。私の弟も、アンタみたいだったらよかったのにね」

「……弟さん、いるんですか。オレと同じくらいの?」

「全然、だから冗談だワ。私もアンタと妙に同じ独りっコ。どれどれ、もっと部屋の真ん中でおハルネェちゃんにもよく見せてごらん。野育ちのクセして、酒気の嗅ぎ方すらわかってない不甲斐ない弟分よ」

「って……」

 クソ~。また一人、おネェサマが増殖するとはなぁ。

 でも、今回はその理由がきっぱりと明言されちまったね、オレが不甲斐ないからなんだ。
 だからこうして本当の弟みたく、まるで遠慮も警戒もナシに腕を捕まれ、思うがままの位置にまで引っ張られちまう。

「はい、胸を張って気をつけぇ」

 しかし、なぜか逆らえないのは、オレもどこかではネエさんという存在に、心惹かれている独りっコゆえの(さが)なんだろうな……。

「う~ん……そうだわねぇ、フツウに手染めしたわけでもなさそう。一応蝋引きしてから二色を染めて、最も明るい色だけはくっきり出すぎてドギツくならないように、柄の輪郭が滲ませてあるんだワ」

「へ~。おハルもさすが、わかるんだねぇ……」

 あまりに素っ気なくオレが言ってしまったせいか、おハルのドヤ顔も、なんだか複雑そうなカンジ。 
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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