182 マインドコントロールを実感されていますでしょうか ‐1st part‐
文字数 1,822文字
「その四メートル道路、舗装はされてはいても、緩やかなS字を描く全長百数十メートルの途中には街路灯がない。夜は地元の人でさえ、滅多に通りぬけない雑木林の深部と言える。その道端での惨劇は、包丁やテープも、勝庫織莉奈が用意していたと見なされているんです」
草豪も完全に調子づいたらしく、声のトーンを変えて語り出した。
オレの記憶にグッサリと突き刺さったまま、ぬけそうもないこの声調が意味することは、草豪が言い勝てる確信をつかめた証拠だ。
何にどう勝つ気なのか知らんけれど、もう筌松と上婾さんは、草豪の爪牙 から逃げられない。
手ゴマでも、草豪に全身を鷲掴みにされた降伏感から、自ずと、絶対服従っぽい手ゴマへと成り下がっちまうことだろう……。
それに気づかず筌松は、尚もミステリー好きを全開にして、逆に草豪が開示する事実の先へ行って見せようって気、満満~ときちゃってるカンジ。
さらに一段、目の色を変えながらも、入念な齧 りつきを見せてくる。
「……つまり、リュックに入れてあったわけね?」
「その辺のことは、どの週刊誌の記事でもスッポリぬけてしまっていますけれどね。包丁を手にしたのも、まずは勝庫織莉奈だった。そして、そのリュックには、緑内のカメラも仕舞われていた」
「勝庫織莉奈は、その暗い道からも、自分からはずれて行ったわけ?」
「おそらく。勝庫織莉奈の履いていたスニーカーには、ムリヤリ引き摺られた証拠となるような、土の付着はなかったんです」
「スニーカーの汚れや傷は見落としようもないもんね。地面自体にもナシ?」
「そう。道路から三メートル余りしか離れていない場所で、騒然となった子供たちに踏み荒らされてしまったとは言っても、抵抗する人間を、力任せに運ぼうとすれば、確然とその痕跡は残りますからね」
「それなら、まず勝庫織莉奈が自分からでしょうね」
「勝庫織莉奈は、四〇メートルくらい進んだ、緩やかなS字の最初のカーブが終わった辺りから、その道路をはずれて左手の雑木林へ入って行こうとした。なので、それまで歩きながらの根上の詰問からのがれるためだけでなく、勝庫織莉奈にはその時点で殺意があり、殺害のための配慮から林へと分け入ろうとしたのかもしれません」
「……まぁ、そうなるまで、歩きながらでも、とりあえず包丁はスグに出せるようにしておくか、隠しながら握っておく必要はありそうだわ」
「ええ。そして、そこから林の中へ進んだとしても、暫くは葉が落ちた木と、膝までは隠さない丈の草ばかりで、見通しはある程度は利いたはずですから、根上にスグ様止められたんでしょう」
「それは止めるでしょフツウ。雑木林の中なんて、昼間でもついて行きたくなんかないもの。それで殺害現場は、道路から三メートルしかはずれてないわけねぇ」
「えぇまぁ、リュックから出そうしていた包丁を、早ばやと根上に奪いとられてしまって、まさかの通りがかりなど、気にすることなく、勝庫織莉奈を審尋するために、根上が彼女を脅して、雑木林を貫く道へと導いたとも考えられるんですけれど」
「重箱の隅を突つく気はないんで、それはどっちでもいいとして、根上クンは、どうして勝庫織莉奈を木に縛りつけたのかな? しかも写真まで撮るなんて。その辺りの必要性は、やっぱりフツウならなさそうなんだけど?」
「さぁ? でも、根上が、奪った包丁で脅して、勝庫織莉奈を林の奥へと連れて行ったのではなく、勝庫織莉奈がその方向へと、自らの意思で進んで行ったことを前提とすれば、まだ納得はできますよね」
「さっきのは、その前フリだったわけね。聞かせてよ」
「細い道路を四〇メートル行った先で、さらに雑木林の中へ入って行くのを、根上に制止された勝庫織莉奈が、その時にはっきり包丁を示して根上を脅服しようとした。当然、根上が抵抗して、勝庫織莉奈の体ごと近くの樹に押さえつけて動きを止め、包丁もとりあげる。彼女のリュックには、また別の凶器が入っているかもしれない」
「……うん。それでそれで?」
「でも彼女を押さえながらですから、恐る恐るリュックに片手を突っ込んで、触れても大丈夫だった物を次次と、とり出すようなカンジで確かめるしかないでしょう? すると、ダクトテープや、決定的物証となるカメラまでが出てきた。そのカメラを、懐中電灯で照らしてよく確認するためにも、彼女を縛りつけなくてはなりませんよね」
「確かにね。そう言う理由なら、縛りつける必要性もフツウだわぁ……」
草豪も完全に調子づいたらしく、声のトーンを変えて語り出した。
オレの記憶にグッサリと突き刺さったまま、ぬけそうもないこの声調が意味することは、草豪が言い勝てる確信をつかめた証拠だ。
何にどう勝つ気なのか知らんけれど、もう筌松と上婾さんは、草豪の
手ゴマでも、草豪に全身を鷲掴みにされた降伏感から、自ずと、絶対服従っぽい手ゴマへと成り下がっちまうことだろう……。
それに気づかず筌松は、尚もミステリー好きを全開にして、逆に草豪が開示する事実の先へ行って見せようって気、満満~ときちゃってるカンジ。
さらに一段、目の色を変えながらも、入念な
「……つまり、リュックに入れてあったわけね?」
「その辺のことは、どの週刊誌の記事でもスッポリぬけてしまっていますけれどね。包丁を手にしたのも、まずは勝庫織莉奈だった。そして、そのリュックには、緑内のカメラも仕舞われていた」
「勝庫織莉奈は、その暗い道からも、自分からはずれて行ったわけ?」
「おそらく。勝庫織莉奈の履いていたスニーカーには、ムリヤリ引き摺られた証拠となるような、土の付着はなかったんです」
「スニーカーの汚れや傷は見落としようもないもんね。地面自体にもナシ?」
「そう。道路から三メートル余りしか離れていない場所で、騒然となった子供たちに踏み荒らされてしまったとは言っても、抵抗する人間を、力任せに運ぼうとすれば、確然とその痕跡は残りますからね」
「それなら、まず勝庫織莉奈が自分からでしょうね」
「勝庫織莉奈は、四〇メートルくらい進んだ、緩やかなS字の最初のカーブが終わった辺りから、その道路をはずれて左手の雑木林へ入って行こうとした。なので、それまで歩きながらの根上の詰問からのがれるためだけでなく、勝庫織莉奈にはその時点で殺意があり、殺害のための配慮から林へと分け入ろうとしたのかもしれません」
「……まぁ、そうなるまで、歩きながらでも、とりあえず包丁はスグに出せるようにしておくか、隠しながら握っておく必要はありそうだわ」
「ええ。そして、そこから林の中へ進んだとしても、暫くは葉が落ちた木と、膝までは隠さない丈の草ばかりで、見通しはある程度は利いたはずですから、根上にスグ様止められたんでしょう」
「それは止めるでしょフツウ。雑木林の中なんて、昼間でもついて行きたくなんかないもの。それで殺害現場は、道路から三メートルしかはずれてないわけねぇ」
「えぇまぁ、リュックから出そうしていた包丁を、早ばやと根上に奪いとられてしまって、まさかの通りがかりなど、気にすることなく、勝庫織莉奈を審尋するために、根上が彼女を脅して、雑木林を貫く道へと導いたとも考えられるんですけれど」
「重箱の隅を突つく気はないんで、それはどっちでもいいとして、根上クンは、どうして勝庫織莉奈を木に縛りつけたのかな? しかも写真まで撮るなんて。その辺りの必要性は、やっぱりフツウならなさそうなんだけど?」
「さぁ? でも、根上が、奪った包丁で脅して、勝庫織莉奈を林の奥へと連れて行ったのではなく、勝庫織莉奈がその方向へと、自らの意思で進んで行ったことを前提とすれば、まだ納得はできますよね」
「さっきのは、その前フリだったわけね。聞かせてよ」
「細い道路を四〇メートル行った先で、さらに雑木林の中へ入って行くのを、根上に制止された勝庫織莉奈が、その時にはっきり包丁を示して根上を脅服しようとした。当然、根上が抵抗して、勝庫織莉奈の体ごと近くの樹に押さえつけて動きを止め、包丁もとりあげる。彼女のリュックには、また別の凶器が入っているかもしれない」
「……うん。それでそれで?」
「でも彼女を押さえながらですから、恐る恐るリュックに片手を突っ込んで、触れても大丈夫だった物を次次と、とり出すようなカンジで確かめるしかないでしょう? すると、ダクトテープや、決定的物証となるカメラまでが出てきた。そのカメラを、懐中電灯で照らしてよく確認するためにも、彼女を縛りつけなくてはなりませんよね」
「確かにね。そう言う理由なら、縛りつける必要性もフツウだわぁ……」