151 しっくす・でぐりーす・おぶ・せばれーしょん ‐1st part‐

文字数 1,535文字

 現時点では、ESP能力者の脳の活動状況は見ることができても、その脳が受容する、外部からの思念までを検波できた例はないらしい。
 また、そういった奇矯な実験を、本格的に試みているフツウの研究者も皆無だそうだ。

 根上の知る限りでは唯一、日本の脳研究の第一人者である葉植教授が、かつて、米国立衛生研究所のエドワード・エヴァーツが、脳へ直接電極を入れて、ニューロンの活動を確認したのを機に、イヌを五〇匹近くも犠牲にして調査した記録があった。

 しかしながら、イヌの脳の状況をトレースし続けるには、当時の実験設備では、かなり困難で微妙なことだったらしく、イヌが感受する人間の思念を、明確に計測することはできずに終わった。
 でも葉植教授は、そうした実験後の考察で、

の存在を示唆しているとのこと。
 さらに、その波動を減衰なく伝播し、地上の生きとし生ける物を、あまねく結びつけている媒質材として、教授はまず人間そのものを提示していた。
 つまりは、やはり人は、脳ミソを介してつながれるということなんだろう。

 そんな、一流のサイエンティストにあるまじきオカルトチックな記述は、教授の初期の随想集に出てくると言うことなので、どこまで根拠のあるシリアスな私見だったかは知れないんだけれど……。

 根上が、葉植教授のそんな著作までもを読んでいたのかと呆れるものの、そもそも三人のようなミステリー(つう)にとっては、超能力という表現からして不穏当。
 誰もがもっている能力が、異常発達しているだけ。特異体質という言いぐさで、充分許される範囲の特異性と見なすべきだといった印象がした。

 テレパスという特異体質の人間離れ程度も、視力が海中で九・〇もあるメルギー諸島のモーケン族とか、百万人に一人の割合で存在するという、通常の三倍の酸素量を運ぶスーパーヘモグロビンの持主。世界で四〇人ほどしか確認されていない、コレステロールを自身で分解するDNAを持つポルタトーリ。
 それらと同次元のあつかいしても、全くかまわないと言うことだ。

 第一、オレは目と鼻の先で考えていたことを言い当てられているんだから、今にして信じるも信じないもないんだけれど、上婾さんまでが一切否定しないのは心強い。
 これで身贔屓(みびいき)や、嫌われたくないからでは断じてなく、ミラノさんの怪力乱神ぶりを納得してあげられるってもんだ。

 ただ、根上はこの話のオチみたく、こんな風にも言っていた。
 ESPをもつ当人からしてみれば、難儀な持病と同じだろうと……。

 他人の心の中がわかるってことは、人間の邪悪な部分にも直接触れてしまうんだから、決していい気分はしないはず。
 ましてや、捕まる気配も見せない殺人者についてなんか、わかっていてもしゃべらない方が身のためだ。
 ミラノさんがオレにとっている態度は、出し惜しみだとしても、それは正しい行為と言えそう。
 何せ、口封じは、痴情・怨恨・金銭トラブルとともに、殺人の四大動機の一つだそうだからねぇ。

 TV番組に登場するESP能力者たちも、それを第一に考慮されているに違いなかった。
 何の関係もないのに犯人を明かすなんてことは、考えてみれば命懸けの行為と言える。
 別の事件で逃げおおせている凶悪犯どもから、つけ狙われる可能性は充分だし、年に数回の出演料くらいでは割りなど合わない。

 迂闊に使えば、窮地に立たされることになる一利一害な能力。超が付くなんてことを大っぴらに見せるなんて、土台ムリなお話だったんだ。

 それ以前に、ESP能力者にだって人権があるんだから、彼らがTVで眉唾っぽく見えたとしても、それは自衛のためだから仕方がない。
 結局は曖昧さと、疑う余地を残す、当たり障りのない演出とならざるを得ないわけだ。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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