002 ______ ‐2nd part‐
文字数 1,532文字
その、Tシャツや時期的に並べ始めたスウェットシャツに、アクリル系の塗料で描画して販売しているのが宝婁珂児也 。オレとは学部が違うけれど、一応同じ大学に籍を置いている。
でも、推薦で進んだ医学部を途中で藝術学部へと転部したらしいし、留年も何度目か忘れるくらいなので、かなり歳の差がある先輩になる。オレを商売仲間へと引きずり込んだこの広場のボス的存在でもある。
イッパシのアーティスト気取りで、スレンダーもいいトコな体型にもかかわらず、一年中ストライプ柄のシャツに革パンを穿いている宝婁センパイは、つい先日アンデュレート‐クラップドに刈り込んだ髪と顎ヒゲを銀白に染めたばかり。
そんなだから、どこか病的な異人とのツーショットは、恰も地球に潜伏するエイリアン同士の会合といった光景に映る……つくづく奇妙な集まりの一員になってしてしまったことを、オレは今更ながら往生際悪く後悔していたりするのかも。
ちなみに、オレの右隣のスペースの主である羽宗戸毛絲 さんは、独自にブレンドしたハーブティーなんかを扱っている。
大学通りにあるスコッチカフェの一人娘で、芭場里衣 さんとは従妹の関係、つまり全てが手前味噌というわけだ。
毛絲さん曰く、人気のスィーツに定評があるお茶はつき物、という販売戦略なのだそうだけれど、売上の方は里衣さんの足元にも及ばず、客の大半を少し先にある自販機に奪われてしまっている。
だから遺憾ながらも、家業のアンテナショップ的に茶葉や乾燥ハーブの量り売りをしたり、ポプリやらお香やら雑貨小物なども置いて頑張ってはいる。
けれどおそらくは、デスメタやゴスロリを始めとした物騒なコスプレ趣味をやめない限り、売れ行きは良くならないとオレは思う。
商品の品質は確かであろうと、毛絲さんの怪しげな扮装は客へ要らぬ不安を懐かせているに違いない。里衣さんの引っつめ髪に作務衣 姿とまでは言わないけれど、せめて化粧だけでも安心感のあるモノにする必要があるんじゃないかな?
ちなみついでに、今日の毛絲さんはホーンテッドマンション風のメイド服に、まるで凍死体みたいなメイクをしている。
「遅よー、楯 ク~ン」
その呼びかけにふり向けば、オレの左隣のスペースの主、葉植木春菊 さんが巻いた茣蓙 を抱えて立っていた。
その傍らには、商品運搬用の台車も重重しくダンボール箱を載せて鎮座していたけれど、今日は葉植さん見参を知らせる耳障りなキャスターの音が聞こえなかった。ようやくオイルを差したか、部品ごととり替えたかしたらしい。
これで、この僊婆広場で商売をするレギュラーメンバーがそろったことになる。
特定曜日や不定期に顔を出すメンバーもいて、土日なんかは結構な賑わいぶりを見せるのだけれど、平日は大概これら五人でショボく客の寄りつきを待たなければならない。
「いつもよりチョットばかり遅いだけじゃないですか。あ、もしかして徹夜明けだったりするんですか?」
そう尋ねると、葉植さんは真っ直ぐな黒髪の裾を肩の所で弄る癖を見せながら頷いた。
確かに憔悴 した小づくりな瓜実顔 には薄っすらとクマが浮いていて、瞳に精彩も力もない目蓋に描いたような目つきだ。
ってことは、つまり本日、葉植さんの店先に新作が登場するということになる。
なるほどね、それで服装もいつものデニムのオール・イン・ワンではなく、小綺麗なジャスミン色のひらひらワンピースなのか……。
いつ大震災に見舞われてもいいよう本当に非常用の装備をつめてあるという防災リュック、黄色いハイカットのプロケッズは相も変わらずだけれど、よくよく見れば口唇もキラキラに輝いている。
まだよくはわからないけれど、それだけでも葉植さんなりに気合を入れて来た証拠だ。
でも、推薦で進んだ医学部を途中で藝術学部へと転部したらしいし、留年も何度目か忘れるくらいなので、かなり歳の差がある先輩になる。オレを商売仲間へと引きずり込んだこの広場のボス的存在でもある。
イッパシのアーティスト気取りで、スレンダーもいいトコな体型にもかかわらず、一年中ストライプ柄のシャツに革パンを穿いている宝婁センパイは、つい先日アンデュレート‐クラップドに刈り込んだ髪と顎ヒゲを銀白に染めたばかり。
そんなだから、どこか病的な異人とのツーショットは、恰も地球に潜伏するエイリアン同士の会合といった光景に映る……つくづく奇妙な集まりの一員になってしてしまったことを、オレは今更ながら往生際悪く後悔していたりするのかも。
ちなみに、オレの右隣のスペースの主である
大学通りにあるスコッチカフェの一人娘で、
毛絲さん曰く、人気のスィーツに定評があるお茶はつき物、という販売戦略なのだそうだけれど、売上の方は里衣さんの足元にも及ばず、客の大半を少し先にある自販機に奪われてしまっている。
だから遺憾ながらも、家業のアンテナショップ的に茶葉や乾燥ハーブの量り売りをしたり、ポプリやらお香やら雑貨小物なども置いて頑張ってはいる。
けれどおそらくは、デスメタやゴスロリを始めとした物騒なコスプレ趣味をやめない限り、売れ行きは良くならないとオレは思う。
商品の品質は確かであろうと、毛絲さんの怪しげな扮装は客へ要らぬ不安を懐かせているに違いない。里衣さんの引っつめ髪に
ちなみついでに、今日の毛絲さんはホーンテッドマンション風のメイド服に、まるで凍死体みたいなメイクをしている。
「遅よー、
その呼びかけにふり向けば、オレの左隣のスペースの主、
その傍らには、商品運搬用の台車も重重しくダンボール箱を載せて鎮座していたけれど、今日は葉植さん見参を知らせる耳障りなキャスターの音が聞こえなかった。ようやくオイルを差したか、部品ごととり替えたかしたらしい。
これで、この僊婆広場で商売をするレギュラーメンバーがそろったことになる。
特定曜日や不定期に顔を出すメンバーもいて、土日なんかは結構な賑わいぶりを見せるのだけれど、平日は大概これら五人でショボく客の寄りつきを待たなければならない。
「いつもよりチョットばかり遅いだけじゃないですか。あ、もしかして徹夜明けだったりするんですか?」
そう尋ねると、葉植さんは真っ直ぐな黒髪の裾を肩の所で弄る癖を見せながら頷いた。
確かに
ってことは、つまり本日、葉植さんの店先に新作が登場するということになる。
なるほどね、それで服装もいつものデニムのオール・イン・ワンではなく、小綺麗なジャスミン色のひらひらワンピースなのか……。
いつ大震災に見舞われてもいいよう本当に非常用の装備をつめてあるという防災リュック、黄色いハイカットのプロケッズは相も変わらずだけれど、よくよく見れば口唇もキラキラに輝いている。
まだよくはわからないけれど、それだけでも葉植さんなりに気合を入れて来た証拠だ。