196 ______________ ‐3rd part‐
文字数 1,813文字
でもセンパイは、スグに表情をニュートラルへと戻してくれる。
「そう。凶暴な奴ってのは、とにかく出す手数だけは多いからな。ヘタに立ち向かって、思わぬカウンターを喰らった結果、ボコられちまう場合がほとんどじゃないか?」
「……喰らいそうですよねぇオレ、カウンター……」
「でも、躱すなら、そんな不運も回避できる。攻撃は最大の防御なんてのは、単なるトリガーハッピーどもの方便だ」
「……はぁ」
無闇やたらと手数を出す奴も、精神的には、追いつめられてる状態ってわけか。
「最大の防御は、身に危険が及ぶ前に、尻を引っ絡 げて逃げちまうことだ。争点が何だろうと、暴力沙汰なんかバカウザいだけだしな」
「……ですよね」
「理性を失ってる奴と、同じ土俵へ上がることの方が余っぽど恥ぃぜ。だが、いつもトンズラできるとは限らないから、チョチョイと身を躱しちまうのさ」
「はい……」
「殴る蹴るって動作も、結構辛労いことを、この二週間で思い知ったろ? なら、一躱しがどれだけ相手にダメージを与えるか、そう考えるのさ。相手がへたばるまで躱しきった時には、殴り倒すよりも爽快だぜ。だからこれ以後、その辺を意識しなおして動くようにな」
「……あのぉ、でも複数の相手に対してはどうなんです? 七人のチンピラを相手にしたセンパイみたいにとは言いませんけれど、オレも、最低二人からは、どうしても躱しきりたいんですよね」
センパイには、この休みが終われば、どうしたって事件前の生活に戻らねばならず、陽が落ちてからの独り歩きは危険だとか、言っていられなくなるからとの理由で、この躱閃術を速成教授してもらっている。
だから話していないし、話せない厳秘 事だけれど、オレの相手は具体的に二人と決まっているんだ。
実際、どんな混戦、乱戦になっちまうか……。
オレは、この一連の事件を契機に、オレなりに生半を、中途半端をやめることにしたんだ。
勝庫織莉奈が解いた呪いの正体、それはミラノさんから、生半ながら正解をもらった。
オレは緑内と根上を殺した
何せ、田宮謡のリサイタルに合わせて、老人が犠牲になる死亡事故や事件は、現在も尚続いているみたいだから。
オレが現地へ赴きさえすれば、必ずや、何らかの異変を察知できそうな気がしてならない。
二人の身許を突き止めて、決定的証拠とともにケーサツへタレ込んでやる。
それが、正道派でも横道派でもない、フツウに平凡な流俗派とでも呼ぶべきオレの、ミラノさんへの返答だ。
流俗派と言うくくり、結局はケーサツ任せってことからして、生半クサさがしっかり残っていそうだけれど、どう足掻いてもオレは凡人、一介のビンボー学生なんだから仕方がない。
それに、事件の真相を解明するだけ、趣味やエゴだけで殺人を犯すってのも、相当な生半じゃないか?
たとえくくりが生半だとしても。その中でやれることを最大限やれば、凡人の中でも
センパイも薄薄は、オレが口上どおりの目的で、毎晩稽古をつけてもらっているわけではないことを察しているんだと思う。
だから毎度毎度、丸める新聞紙のサイズを変え、バールから包丁に見立てて、それぞれの躱し方を結構ガチで伝授してくれている。
オレだって、ミラノさんが帰る前に、どうにか成果をあげておきたいし──。
「胸倉をとられたり、羽交い絞めにされたりした場合からの逃げ方は、マスターしてるだろ。あとはともかく、相手を背後に廻さないよう、逐一ポジションを意識して、動き続けるだけのことだ。複数相手だとしても、基本は一対一だからな」
「複数でも、っすか?」
「ああ。一人が攻撃している間、残りはとり囲もうとはしながら、自分の出番をお行儀よく待って、それを見ている場合がほとんどだ、そこに生えてる植木と大差ない」
「マジガチっすか?」
「ユニゾンで攻撃するってのは、相当な練度を要する技術だからな。道場破りにでも行かない限り、そんな連係のとれた連中と、やり合うなんてことはないだろうよ」
そっか。快楽殺人女とそのストーカー男だって、統制がとれている二人でもなさそうだしねぇ……うん、よぉし!
「そう。凶暴な奴ってのは、とにかく出す手数だけは多いからな。ヘタに立ち向かって、思わぬカウンターを喰らった結果、ボコられちまう場合がほとんどじゃないか?」
「……喰らいそうですよねぇオレ、カウンター……」
「でも、躱すなら、そんな不運も回避できる。攻撃は最大の防御なんてのは、単なるトリガーハッピーどもの方便だ」
「……はぁ」
無闇やたらと手数を出す奴も、精神的には、追いつめられてる状態ってわけか。
「最大の防御は、身に危険が及ぶ前に、尻を引っ
「……ですよね」
「理性を失ってる奴と、同じ土俵へ上がることの方が余っぽど恥ぃぜ。だが、いつもトンズラできるとは限らないから、チョチョイと身を躱しちまうのさ」
「はい……」
「殴る蹴るって動作も、結構辛労いことを、この二週間で思い知ったろ? なら、一躱しがどれだけ相手にダメージを与えるか、そう考えるのさ。相手がへたばるまで躱しきった時には、殴り倒すよりも爽快だぜ。だからこれ以後、その辺を意識しなおして動くようにな」
「……あのぉ、でも複数の相手に対してはどうなんです? 七人のチンピラを相手にしたセンパイみたいにとは言いませんけれど、オレも、最低二人からは、どうしても躱しきりたいんですよね」
センパイには、この休みが終われば、どうしたって事件前の生活に戻らねばならず、陽が落ちてからの独り歩きは危険だとか、言っていられなくなるからとの理由で、この躱閃術を速成教授してもらっている。
だから話していないし、話せない
男
とやり合う覚悟はしたけれど、女
も侮れない快楽殺人者。黙って見ていてくれるとは、思わない方がいいに決まってる。実際、どんな混戦、乱戦になっちまうか……。
オレは、この一連の事件を契機に、オレなりに生半を、中途半端をやめることにしたんだ。
勝庫織莉奈が解いた呪いの正体、それはミラノさんから、生半ながら正解をもらった。
オレは緑内と根上を殺した
男
と、人を殺し廻っているという女
を、必ず見つけ出してやるっ。何せ、田宮謡のリサイタルに合わせて、老人が犠牲になる死亡事故や事件は、現在も尚続いているみたいだから。
オレが現地へ赴きさえすれば、必ずや、何らかの異変を察知できそうな気がしてならない。
二人の身許を突き止めて、決定的証拠とともにケーサツへタレ込んでやる。
男
にも女
にも殺られずにだ。そう決めた。それが、正道派でも横道派でもない、フツウに平凡な流俗派とでも呼ぶべきオレの、ミラノさんへの返答だ。
流俗派と言うくくり、結局はケーサツ任せってことからして、生半クサさがしっかり残っていそうだけれど、どう足掻いてもオレは凡人、一介のビンボー学生なんだから仕方がない。
それに、事件の真相を解明するだけ、趣味やエゴだけで殺人を犯すってのも、相当な生半じゃないか?
たとえくくりが生半だとしても。その中でやれることを最大限やれば、凡人の中でも
好凡人
だ。名探偵
や濫殺者
から、何を非難されることがあるもんか!センパイも薄薄は、オレが口上どおりの目的で、毎晩稽古をつけてもらっているわけではないことを察しているんだと思う。
だから毎度毎度、丸める新聞紙のサイズを変え、バールから包丁に見立てて、それぞれの躱し方を結構ガチで伝授してくれている。
オレだって、ミラノさんが帰る前に、どうにか成果をあげておきたいし──。
「胸倉をとられたり、羽交い絞めにされたりした場合からの逃げ方は、マスターしてるだろ。あとはともかく、相手を背後に廻さないよう、逐一ポジションを意識して、動き続けるだけのことだ。複数相手だとしても、基本は一対一だからな」
「複数でも、っすか?」
「ああ。一人が攻撃している間、残りはとり囲もうとはしながら、自分の出番をお行儀よく待って、それを見ている場合がほとんどだ、そこに生えてる植木と大差ない」
「マジガチっすか?」
「ユニゾンで攻撃するってのは、相当な練度を要する技術だからな。道場破りにでも行かない限り、そんな連係のとれた連中と、やり合うなんてことはないだろうよ」
そっか。快楽殺人女とそのストーカー男だって、統制がとれている二人でもなさそうだしねぇ……うん、よぉし!