077 _____________________ ‐2nd part‐
文字数 1,780文字
「どもっ、おはよう御座います。すみません、スマホもち忘れちゃって。でもムッシューに遇いましたよ。完成したって聞いたんで」
「モォ~、まぁそうなんだけどっ」
「本当かい? でもそれは、シベルネティゼ単体としてであって、完全な作品としての完成はまだ先になるだろうな。ビルの設備を始めとした周りが出来あがってこないことにはね。僕に任された仕上げの作業もあることだし」
ナフサさんが、巨躯までもをのそりと出しながら言う。
「……あ、はい」
まぁ、確かムッシューは
「やあ、それにしても久しぶり。あれから無事に勤めあげてくれたみたいで、本当によかったよ」
「はいまぁ何とか。でも随分と早い撤収作業じゃないですか?」
「そうかい? まっ、そこは企業秘密ってところかな。NATO軍御用達ディポゥ‐テント敷設の御用命があった時には、是非とも、僕の事務所か望洋建設にお任せを、ってね」
「チョット、ナフサってば、そお言う部外秘なことを軽軽しく口に出さないでちょうだいっ。まだそおと確実に決まった話じゃないし、聞いてマズいのは当然水埜クンの方なんだから」
「また始まった。まったく、それでは冗談ではなくなってしまうじゃないか。なぁ水埜クン? 唏になんか合わせなくていいから、友達を誘って遊びにおいで。もう少しすれば絶好のクルージングシーズンになるからね。さぁ、中に入って熱いお茶と甘い物でもおあがりなさい。僕らはもう一っ働きだ」
そうオレを促すと、ナフサさんはプレハブハウスの中に向かって「ハイッみんな、休憩はお終いだよ」と、手打ち二つで声がけをした。
すると横の、これまでテントへの入口だった戸が開いて、ぞろぞろと紺ツナギの五人が現れた。
どうやら、撤収作業はナフサさん一人で行ったわけではなかったみたい。まぁ、それにしたって早すぎるとは思うけれど……。
とり敢えず、有勅水さんに勧められるままプレハブの中へ入ると、なんだかガッコの部室を思い出す空気が籠もっていた。
「適当に座って。コーヒーでいいかしら、それとも日本茶? どっちもインスタントだけど」
「はい。じゃぁコーヒーで」
オレはソファーに腰を下ろすことにした。どうせ温もりが残っているのなら、知っている人の方がいい。
「鯛焼きも、残り物だけどよかったらどうぞ。もお、ナフサに甘い物情報なんか教えちゃダメよぉ、さっき商店街のはずれまで買いに行かされたの、それも私一人で抱えるほど」
「あは。すみません、それは大変でしたね」
「尋ね尋ねやっと見つけて、開店前から待つことになって恥かしかったんだからぁ。でもまぁ美味しかったけど。この界隈じゃ有名店みたいね」
「えぇそうですね……」
「なぁに? さっきナフサが口にした冗談は、冗談として受け取って欲しいの。特に大学なんかでは話さないで。その、水埜クンの大学は、フツウの大学とは違うって話じゃない?」
「……ぁはい。ってそれ、どんな話ですか?」
「ウチと競合関係にある企業が、バックに幾つも控えてるみたいだし。些細なことでも、どこをどお伝わってしまうか、厄介なことになるのだけは確実だから」
「あ、いぇ、あれが軍事用のテントだってことは以前に聞いていましたし、それも誰にも話してません」
「まったく。図体だけじゃ足りなくて余計なことばかり言って邪魔するんだから。おかしなことが多くて嫌になるだろうけど、とにかく前にも注意したとおり、フツウじゃないとカンジたことは黙っててね」
「はい……」
「承知してくれていると思うけど、そう言うことも含めたギャラが、水埜クンに支払われているわけだから。くれぐれもよろしくねっ」
「……あぁもしかして、オレには見せられないモノがあるから、事前連絡もナシに撤収作業が始められたってことですか?」
「何だぁ、それが引っかかってたの? ゴメンね、でも事前に連絡がなかったのは、私もだったのよ」
有勅水さんがここへ着いた時には、作業場の大まかな整頓は、既に済んでしまっていたとのこと──。
夜明け前に憑き物が落ちて、我に返ったムッシューが、完成したセイレーンたちを自然光の下で見たいがために、独りでせっせとテントをはずし、四体を結んでできるエリア内から機材や道具も退かしていた。
だから、あとはバラせる機材をさらにバラして、トラックのコンテナへ積み込むだけ。
「モォ~、まぁそうなんだけどっ」
「本当かい? でもそれは、シベルネティゼ単体としてであって、完全な作品としての完成はまだ先になるだろうな。ビルの設備を始めとした周りが出来あがってこないことにはね。僕に任された仕上げの作業もあることだし」
ナフサさんが、巨躯までもをのそりと出しながら言う。
「……あ、はい」
まぁ、確かムッシューは
僕の仕事は
と限定的に言っていたかな。「やあ、それにしても久しぶり。あれから無事に勤めあげてくれたみたいで、本当によかったよ」
「はいまぁ何とか。でも随分と早い撤収作業じゃないですか?」
「そうかい? まっ、そこは企業秘密ってところかな。NATO軍御用達ディポゥ‐テント敷設の御用命があった時には、是非とも、僕の事務所か望洋建設にお任せを、ってね」
「チョット、ナフサってば、そお言う部外秘なことを軽軽しく口に出さないでちょうだいっ。まだそおと確実に決まった話じゃないし、聞いてマズいのは当然水埜クンの方なんだから」
「また始まった。まったく、それでは冗談ではなくなってしまうじゃないか。なぁ水埜クン? 唏になんか合わせなくていいから、友達を誘って遊びにおいで。もう少しすれば絶好のクルージングシーズンになるからね。さぁ、中に入って熱いお茶と甘い物でもおあがりなさい。僕らはもう一っ働きだ」
そうオレを促すと、ナフサさんはプレハブハウスの中に向かって「ハイッみんな、休憩はお終いだよ」と、手打ち二つで声がけをした。
すると横の、これまでテントへの入口だった戸が開いて、ぞろぞろと紺ツナギの五人が現れた。
どうやら、撤収作業はナフサさん一人で行ったわけではなかったみたい。まぁ、それにしたって早すぎるとは思うけれど……。
とり敢えず、有勅水さんに勧められるままプレハブの中へ入ると、なんだかガッコの部室を思い出す空気が籠もっていた。
「適当に座って。コーヒーでいいかしら、それとも日本茶? どっちもインスタントだけど」
「はい。じゃぁコーヒーで」
オレはソファーに腰を下ろすことにした。どうせ温もりが残っているのなら、知っている人の方がいい。
「鯛焼きも、残り物だけどよかったらどうぞ。もお、ナフサに甘い物情報なんか教えちゃダメよぉ、さっき商店街のはずれまで買いに行かされたの、それも私一人で抱えるほど」
「あは。すみません、それは大変でしたね」
「尋ね尋ねやっと見つけて、開店前から待つことになって恥かしかったんだからぁ。でもまぁ美味しかったけど。この界隈じゃ有名店みたいね」
「えぇそうですね……」
「なぁに? さっきナフサが口にした冗談は、冗談として受け取って欲しいの。特に大学なんかでは話さないで。その、水埜クンの大学は、フツウの大学とは違うって話じゃない?」
「……ぁはい。ってそれ、どんな話ですか?」
「ウチと競合関係にある企業が、バックに幾つも控えてるみたいだし。些細なことでも、どこをどお伝わってしまうか、厄介なことになるのだけは確実だから」
「あ、いぇ、あれが軍事用のテントだってことは以前に聞いていましたし、それも誰にも話してません」
「まったく。図体だけじゃ足りなくて余計なことばかり言って邪魔するんだから。おかしなことが多くて嫌になるだろうけど、とにかく前にも注意したとおり、フツウじゃないとカンジたことは黙っててね」
「はい……」
「承知してくれていると思うけど、そう言うことも含めたギャラが、水埜クンに支払われているわけだから。くれぐれもよろしくねっ」
「……あぁもしかして、オレには見せられないモノがあるから、事前連絡もナシに撤収作業が始められたってことですか?」
「何だぁ、それが引っかかってたの? ゴメンね、でも事前に連絡がなかったのは、私もだったのよ」
有勅水さんがここへ着いた時には、作業場の大まかな整頓は、既に済んでしまっていたとのこと──。
夜明け前に憑き物が落ちて、我に返ったムッシューが、完成したセイレーンたちを自然光の下で見たいがために、独りでせっせとテントをはずし、四体を結んでできるエリア内から機材や道具も退かしていた。
だから、あとはバラせる機材をさらにバラして、トラックのコンテナへ積み込むだけ。