019 リアルでHPが削られる感覚について ‐1st part‐
文字数 1,524文字
「まあ、と言うわけで納得してもらえたかしら? 私たちに怪しいトコなんかないってこと」
失敗した。オレがスグ様ウンウンと頷いために、有勅水さんが念押しするあの鮮やかな微笑みはセンパイ目線になってしまったぁ──。
「あぁ、さっきは怒鳴って悪かった。これまで俺たちが婆ちゃんの身内みたいなもんだったから、見慣れないあんたらに気の利いた真似されたんで、少し癇に障っただけなんだ」
センパイは悪怯 れた様子など全くなく、オレには口先だけとカンジられる謝罪。
でも、とにかく大荒れにならずに済んでよかった~。
「そお。気持はわかるから、お互い水に流しちゃいましょ」
「ただ、仲間から警察に通報したって聞いたんでね。俺としてはそこんトコも説明してもらいたいな」
「いいけど、でも別に何か、あの彼女を疑ったわけじゃないのよ──」
有勅水さんが電話したのはケーサツはケーサツでも警察庁だった。
知り合いが国際部にいるので、こういったケースに出交した時には、どんな対処をしておけば問題がないかを尋ねただけ。
有勅水さんの耳には、ここ半年間で独り暮らしの老人ばかり七人も、家の中で起きた不慮の事故で亡くなったという内輪話が入っていた。
それでどこか胸騒ぎを覚えて、上司よりも先に具体的な指示がもらえそうな人へ連絡することを思いついたみたい。
有勅水さんは、知人の指示どおりにスマホで数カットを現場撮影してから、ムッシューと二人で僊婆の遺体を寝室まで移動させた。
それもムッシューが、僊婆を一刻も早く階段の途中から下ろしてやるべきだと、有勅水さんに訴えたためだったらしい。
「なら、まだ一一〇番も一一九番もしていないってことか?」
「そおなるわね、とり敢えず救急車を呼ぼうとしたところへあなたが来たもんだから。そうだわ、社にも一報を入れとかなくちゃ」
「救急車はいい、ウチの病院から誰かよこしてもらうから」
「じゃあ、あなたが宝婁総合病院の御曹司なのね? アルテポーヴェラ(貧しい芸術)にカブレちゃって、医学部まで辞めちゃったって言う」
「悪いか? 誰から聞いたか知らないけどな、医者で成功するよりもアートで成功する方がずっとスゲーし、救える人数も桁違いだってことに気づいただけだ」
「フ~ン。そおなんだぁ」
「なら聞くが、あんたは親の勧めやコネでV&Mに入ったってのか?」
「違うけど、別に非難したつもりはないのよ。下で絵を描いているのは二人いて、もう一人はその、まるで宗教家じみたボヘミアン風だって聞いてたもんだから。なんとなくのイメージ的に、そっちが御曹司かなって思ってたのよ」
「そいつは責丘 って奴だ。一箇月ほど前までは、この楯のいた場所で、絵と言うよりも、首スジがムズ痒くなるような詩やらプロヴァーブス(お言葉)に、好き勝手なイラストを付けたポストカードなんかを売っていた」
「あらぁ、それは惜しかったかも~」
「だが、それも飽きたみたいで今はどこにいるのかもわからないな。書画の腕を極めたいとか仲間の一人には言っていたみたいだから、大陸へでも渡ったんじゃないか? 書道は段もちとかで、確かに筆意のカンジられる水茎 ではあったから」
「そおだったのねぇ? ウチのバイトちゃん情報なもんだから、チャラッポコなトコが結構あって。まぁ仕事には直接関係のないことだし、興味本位で聞いちゃてゴメンなさいね」
「そっか。俺は、端からあんたの仕事には関係ないんだな……」
「え、何?」
「いや、あんた楯の商品を認めてくれたそうじゃないか。こいつは附属あがりの中でも呆れた純粋培養でね、社会に対する免疫が脆弱すぎる。一つエゲツない契約で、こっ酷く鍛えてやってくれ」
──なんてだしぬけな話の脱線、それもオレにだなんてぇ!
失敗した。オレがスグ様ウンウンと頷いために、有勅水さんが念押しするあの鮮やかな微笑みはセンパイ目線になってしまったぁ──。
「あぁ、さっきは怒鳴って悪かった。これまで俺たちが婆ちゃんの身内みたいなもんだったから、見慣れないあんたらに気の利いた真似されたんで、少し癇に障っただけなんだ」
センパイは
でも、とにかく大荒れにならずに済んでよかった~。
「そお。気持はわかるから、お互い水に流しちゃいましょ」
「ただ、仲間から警察に通報したって聞いたんでね。俺としてはそこんトコも説明してもらいたいな」
「いいけど、でも別に何か、あの彼女を疑ったわけじゃないのよ──」
有勅水さんが電話したのはケーサツはケーサツでも警察庁だった。
知り合いが国際部にいるので、こういったケースに出交した時には、どんな対処をしておけば問題がないかを尋ねただけ。
有勅水さんの耳には、ここ半年間で独り暮らしの老人ばかり七人も、家の中で起きた不慮の事故で亡くなったという内輪話が入っていた。
それでどこか胸騒ぎを覚えて、上司よりも先に具体的な指示がもらえそうな人へ連絡することを思いついたみたい。
有勅水さんは、知人の指示どおりにスマホで数カットを現場撮影してから、ムッシューと二人で僊婆の遺体を寝室まで移動させた。
それもムッシューが、僊婆を一刻も早く階段の途中から下ろしてやるべきだと、有勅水さんに訴えたためだったらしい。
「なら、まだ一一〇番も一一九番もしていないってことか?」
「そおなるわね、とり敢えず救急車を呼ぼうとしたところへあなたが来たもんだから。そうだわ、社にも一報を入れとかなくちゃ」
「救急車はいい、ウチの病院から誰かよこしてもらうから」
「じゃあ、あなたが宝婁総合病院の御曹司なのね? アルテポーヴェラ(貧しい芸術)にカブレちゃって、医学部まで辞めちゃったって言う」
「悪いか? 誰から聞いたか知らないけどな、医者で成功するよりもアートで成功する方がずっとスゲーし、救える人数も桁違いだってことに気づいただけだ」
「フ~ン。そおなんだぁ」
「なら聞くが、あんたは親の勧めやコネでV&Mに入ったってのか?」
「違うけど、別に非難したつもりはないのよ。下で絵を描いているのは二人いて、もう一人はその、まるで宗教家じみたボヘミアン風だって聞いてたもんだから。なんとなくのイメージ的に、そっちが御曹司かなって思ってたのよ」
「そいつは
「あらぁ、それは惜しかったかも~」
「だが、それも飽きたみたいで今はどこにいるのかもわからないな。書画の腕を極めたいとか仲間の一人には言っていたみたいだから、大陸へでも渡ったんじゃないか? 書道は段もちとかで、確かに筆意のカンジられる
「そおだったのねぇ? ウチのバイトちゃん情報なもんだから、チャラッポコなトコが結構あって。まぁ仕事には直接関係のないことだし、興味本位で聞いちゃてゴメンなさいね」
「そっか。俺は、端からあんたの仕事には関係ないんだな……」
「え、何?」
「いや、あんた楯の商品を認めてくれたそうじゃないか。こいつは附属あがりの中でも呆れた純粋培養でね、社会に対する免疫が脆弱すぎる。一つエゲツない契約で、こっ酷く鍛えてやってくれ」
──なんてだしぬけな話の脱線、それもオレにだなんてぇ!