021 _________________ ‐3rd part‐

文字数 1,492文字

 ちなみに、インレグとはインターレギュナム制度のこと。
 在栖川の附属校では、中高課程の五年時に他の大学を志望しなければ、六年生をパスして大学への飛び級入学が許可される。
 つまり大学を五年かけて卒業すればいいことになるから、順当にやっていれば一年まるまる自由に過せる休止期間ができる。その附属校からあがった者だけの特例措置が、いつしか大学側までが黙認する制度とまで慢言されるようになった。

 オレが進んだ文科学部では大抵、司法試験やMBA取得のための準備期間に使われるのがフツウ。
 勿論その変則の恩恵を(こうむ)れる絶対数が少ないために、一般受験で入って来た大多数からは、

? ぐらいにしか思われない。
 入学時は同期でも現在の規定ではどんなに優秀だろうと、一般受験の連中とは一緒に卒業まではできないわけで、その事実をうち明けたところで、ヴィーのように全くピンとこない奴がほとんどだ。
 一般受験の連中とは親しくなるだけ四年後にとり残された心境になるそうだから、自然と附属あがりは自ら孤立する道を選びがちになる。連るむにしても、やはり附属あがり同士になり易いというわけ。
 まぁオレとセンパイみたいなのは稀だけれど。

 大学はあくまでも学問をする所だから、その方が勉強できていいはずだし、実際、高成果を挙げている学生は附属あがりが中心になる。またその反動みたいに、落第を繰り返したり無軌道に彷徨(さまよう)うダメ学生も附属あがりばっかだったりもする。

 ──「水埜君、だったよね?」

 か細い声に振り返る。
 するとムッシューが妙に思い詰めた面持をして、センパイの立つ戸口から少し入った位置に佇んでいた。

 二人がそれぞれ壁に向かって電話中なので、オレに声をかけるしかなかったんだろう……でもそんな、見るからに遠い親戚を亡くした悲愴感を漂わせた人の相手など、とてもオレには務まりそうにないんだけれど……。

「えっと。はい、何でしょうか?」

「実はね、お腹が空いて、僕まで死んじゃいそうなんだ。近くで、何かデリヴァリーとかできないだろうか?」

「……あぁ、はいっ」
 また違うポイントをすこ~んと奪われてしまった。

「ムリなのかい?」

 ズリ落ちた気がまえを立てなおしながら問い返す。「あの、何が食べたいですか? 今ならまだ、どこでも大丈夫だと思いますけれど」

「こんな時、日本では何を食べればいいのかな? なんて言うかその、死者に対して失礼にならないような……」

「はぁ、そうですね──」そんな難しいことを聞かれても……けれど、何故かピンッとひらめいた──「天ぷら、でしょうねこんな時は。それも上天重ですね。でも御存知ですか? 天ぷらをゴハンの上に載せて甘辛いタレがかけてあって、天ぷらをフツウに食べるのとはチョット違うんですけれど」

「うん、知ってるよ。じゃあ四人前、お願いしてもいいかな? 僕の分はタレだくで、エビの分もかき揚げにして。できれば、薬味に柚子胡椒を添えてもらえると嬉しいんだよね」

「はい……」

 そしてスマホでオレが、現在はまだ中高課程の六年生をしている同級生のウチへ注文の電話をかけた途端、示し合わせたみたいにセンパイと有勅水さんがそれぞれの通話を終えた。

 さらには、同級生の家で電話番をしていたのは、聴覚の老化が甚だしくなってきた祖父さんで、この電話を店の方へまわしてもらうのに牛に経文級の苦心惨憺をしている間にも、オレの背後では何やら三人で和気藹藹(  あいあい)とした語らいを始められてしまっていた。

 なんかもうこれで、今日の分のポイントは早くもすっからかんだな……何のポイントかは知らんけれど。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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