025 大変なのね。一人いなくなっただけなのに ‐1st part‐
文字数 1,442文字
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庭を離れて石段まで来たはいいけれど、これと言ってアテなんかない。
ユールの朗朗とした音吐 からも、この程度ではのがれられるわけもなかった。
上がるより楽というだけでブラブラと石段を下ってみる。
帰りにはまたこの階段を昇るか、何倍もの距離を大廻りして戻らなければならないことを、広場が見え始めてから気づく自分のトロさ加減にムカつきも再燃。
ったくオレは、こんな時にも一体何をやっているんだか?
……しかし自己嫌悪もそこまで、広場には女神様っ、有勅水さんがいた。
黒だけれど全然喪服っぽくなく、むしろパーティードレスみたいなワンピース姿。
しかし、もうあと二時間ほどで本格的に始まる通夜のための装いであることは間違いない。
そして一体誰と話し込んでいるのかと思えば、里衣さんの屋台がまだ撤収されておらず、その里衣さんと毛絲さんの二人と歓談しているようだった。
オレが足を速めると、有勅水さんが気づいて肩口から伸びるシースルー袖の腕を小さく上げる。
オレも軽い会釈で応えた。
──「何やってるんですか?」
「水埜クンもいかが? 私、何や彼やでお昼ちゃんと食べられなかったのよぉ。ちょうどお店を片づけるトコに居合わせて、試食がてら幾つかつくってもらってたの。やっぱりこれ、できたては想像以上ね、冷めててもそれはそれでかなり美味しいけど」
有勅水さんが、食べていたスィート‐ハギスを千切って、オレに半端を差し出してくれるので「どうも」と受けとり一口齧る。
オレも、一番好きなチョコババロアとホイップクリームのだったからか、急激に空腹を覚えてきた。オレは葉植さんと上天重の相伴に与 かったというのに。
あのあと、有勅水さんは天重を食べずに会社へ戻ってしまったし、宝婁センパイも出前よりも先に到着した実家のクルマで僊婆と一緒に帰ってしまった。
それでオレは、ムッシューに勧められて二人前を平らげていたにもかかわらず……そう言えばセンパイは何をしてるんだろ?
「そうだ。オレ、有勅水さんにもらったチップって言うかボーナスって言うか、あれまだみんなに還元してないんです。よかったら軽く食事しに行きましょうよ。坊さんが来るまで充分時間はありますし、撤収作業も手伝いますから」
有勅水さんに面と向かっては言えないので、里衣さんと毛絲さんへ誘いをかけてみた。
「でも、お店を畳んだら私たちもお通夜のために着替えないと。私がさっきまで休んじゃってた分、お手伝いしておきたいから」
そう里衣さんが言うと、毛絲さんも頷いて同意を示す。
「それに実家へも報告しなくちゃならないもんね。楯クンと一緒でさ、里衣姐も有勅水さんにスカウトされちゃったの。こんな屋台じゃなくて移動販売車で全国展開やらないかって」
「へ~、そいつは凄いじゃないですか」
オレは別のスィート‐ハギスにパクついている有勅水さんへ顔を向ける。
有勅水さんは目だけで肯定し、食べかけから溢れ出すジャム入りのカスタードと格闘していた。
なので、有勅水さんを代弁するように里衣さんが答えてくれる。
「いきなり全国展開ってことじゃないのよ。そうした販売形態も定着してるから、まずは一台で都内で実績をあげてから徐徐に規模を拡大していくプランみたい。楯クンも知ってるでしょう? 私たちの商売は、場所の確保が一番難しいんだってこと」
「……えぇ、そうですよね……」
まぁ、里衣さんの言う
庭を離れて石段まで来たはいいけれど、これと言ってアテなんかない。
ユールの朗朗とした
上がるより楽というだけでブラブラと石段を下ってみる。
帰りにはまたこの階段を昇るか、何倍もの距離を大廻りして戻らなければならないことを、広場が見え始めてから気づく自分のトロさ加減にムカつきも再燃。
ったくオレは、こんな時にも一体何をやっているんだか?
……しかし自己嫌悪もそこまで、広場には女神様っ、有勅水さんがいた。
黒だけれど全然喪服っぽくなく、むしろパーティードレスみたいなワンピース姿。
しかし、もうあと二時間ほどで本格的に始まる通夜のための装いであることは間違いない。
そして一体誰と話し込んでいるのかと思えば、里衣さんの屋台がまだ撤収されておらず、その里衣さんと毛絲さんの二人と歓談しているようだった。
オレが足を速めると、有勅水さんが気づいて肩口から伸びるシースルー袖の腕を小さく上げる。
オレも軽い会釈で応えた。
──「何やってるんですか?」
「水埜クンもいかが? 私、何や彼やでお昼ちゃんと食べられなかったのよぉ。ちょうどお店を片づけるトコに居合わせて、試食がてら幾つかつくってもらってたの。やっぱりこれ、できたては想像以上ね、冷めててもそれはそれでかなり美味しいけど」
有勅水さんが、食べていたスィート‐ハギスを千切って、オレに半端を差し出してくれるので「どうも」と受けとり一口齧る。
オレも、一番好きなチョコババロアとホイップクリームのだったからか、急激に空腹を覚えてきた。オレは葉植さんと上天重の相伴に
あのあと、有勅水さんは天重を食べずに会社へ戻ってしまったし、宝婁センパイも出前よりも先に到着した実家のクルマで僊婆と一緒に帰ってしまった。
それでオレは、ムッシューに勧められて二人前を平らげていたにもかかわらず……そう言えばセンパイは何をしてるんだろ?
「そうだ。オレ、有勅水さんにもらったチップって言うかボーナスって言うか、あれまだみんなに還元してないんです。よかったら軽く食事しに行きましょうよ。坊さんが来るまで充分時間はありますし、撤収作業も手伝いますから」
有勅水さんに面と向かっては言えないので、里衣さんと毛絲さんへ誘いをかけてみた。
「でも、お店を畳んだら私たちもお通夜のために着替えないと。私がさっきまで休んじゃってた分、お手伝いしておきたいから」
そう里衣さんが言うと、毛絲さんも頷いて同意を示す。
「それに実家へも報告しなくちゃならないもんね。楯クンと一緒でさ、里衣姐も有勅水さんにスカウトされちゃったの。こんな屋台じゃなくて移動販売車で全国展開やらないかって」
「へ~、そいつは凄いじゃないですか」
オレは別のスィート‐ハギスにパクついている有勅水さんへ顔を向ける。
有勅水さんは目だけで肯定し、食べかけから溢れ出すジャム入りのカスタードと格闘していた。
なので、有勅水さんを代弁するように里衣さんが答えてくれる。
「いきなり全国展開ってことじゃないのよ。そうした販売形態も定着してるから、まずは一台で都内で実績をあげてから徐徐に規模を拡大していくプランみたい。楯クンも知ってるでしょう? 私たちの商売は、場所の確保が一番難しいんだってこと」
「……えぇ、そうですよね……」
まぁ、里衣さんの言う
私たち
に、売れなくても食品ロスが出ない、オレやセンパイや葉植さんは入らないだろうけれど。