148 ダークトライアドによるテレパシー集中講義 ‐1st part‐

文字数 1,523文字

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 まだもっと話を聞かせてもらいたかったのに、一五時を前にして休憩時間の二〇分が終わると、三人はすっぱり席を立ってしまった。 

 そこで初めて思い至ったけれど、ミラノさん、この根上たちと、顔を合わせたくなかったんじゃないか?  

「あっ、そう言や水埜、中高課程の卒業式はどうするんだ?」

「へ?」

 ──それも思い至らず、なんと式は明日だった。

「水埜までがそうだとはね。理工に進んだほかの連中も、中高課程は、既に遥か遠い過去みたいでさ。で、出席するのかい?」

「う~ん行かない、行きたくもないよ。受験組の連中にはこの前会ったし、第一もう制服なんか、サイズ的にも着れないと思うし」

「そっか。じゃぁやっぱり、ほかをあたるしかないか。俺も明日は、今晩からチョット野暮用ができて、出られなくなったんだよね」

 聞けば、根上は、卒業式で緑内の遺影を持つ代役を探していた。
 端からオレをアテにしてはいなかったみたいだけれど、同じ学部の全員が欠席とは、想定外だったんだろう。
 最後は剣橋に頭を下げると、根上は笑う。でも、川溜と江陣原の反応次第では、断られる可能性は充分ありそうだよなぁ。
 つくづく、生徒会役員なんかには、なるもんじゃないね。

 そんな根上が、スンスンと先に行った二人を追ってラウンジから姿を消して、結局ミラノさんが一緒に来ていることさえも教えられないままに一時片時、思い至ったとおり、ミラノさんがフワフワ舞い戻って来た。

 下階の生協を彷徨っていたようだけれど、ど~して欲しくなっちゃったのか? 寝袋なんかを抱えていた。
 
「水埜楯、お土産お土産。今晩からこれで、ぐっすらこんだよ」

「って、オレにピンクのを? これって女性か子供用じゃないの?」
 
「いいのいいの。私はまたTVTV、水埜楯もレポート書き書きだよ」

 またしてもミラノさん、この場凌ぎのイタズラだな。

 つまり、根上たちを避けたのは、当たりってことか……。
 ESPに(とど)まらず、超常現象や、緑内のを含めた未解決事件といったミステリー全般が、(かん)(じゃ)なまでに大好物だった根上たちだから。
 ましてや科学者の卵たちだけに、知り合ってしまうと、いろいろウザいことになるんじゃないかって。

 

? と念じてみるも、早速さっきと同じ席でTVに見入っているミラノさんが、その顔をオレへふり向けることはなかった。
 そして、オレのスマホまでが鳴ってしまって、オレの思念が通じたかどうかすらわからず終い。

 電話をかけてきたのはヴィーのダチの一人だった。
 ウチに誰もいないため、勝手に鍵を開けて上がるよと言う、断りの連絡だ。

 ……不思議と、ヴィーが雲隠れしたあとも、ウチへ立ち寄る人数に目立った減員はない。
 そうした彼女彼(ヴィーのダチ)たちは、ヴィーが暴れてケガをさせたという悪い仲間とは関係していないんだろう。
 みんな、

と言う、オレのごまかしを疑う素ぶりもなく鵜呑みにしてくれて、ヴィーのスマホがつながらないのも、缶詰状態で、レポート書きをさせられているのかと安閑なもんだ。

 こんな具合ならば、新年度にヴィーが戻って来ても何変わりない生活を始めてしまえる。

 ホッとする反面、なんか複雑に胸が痛む。
 おそらく鵠海氏は、オレが余計なことを言わないと見越していたに違いないし、くれた必勝データも、端から口止め料代わりだったのかもしれない。

 しかし。
 みんなが、ウチを溜まり場にし続けることはかまわないけれど、まだ強盗殺人犯が捕まっていない現実を、もっと深刻に考えて欲しいよなぁ。
 まさかとは思うものの、誰かが緑内を殺した犯人を、新顔としてウチへ連れて来ないとも限らないんだし……。
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登場人物紹介

登場人物につきましてはイントロ的に一覧で掲載しておりますぅ


当作は主人公:楯の一人称書きをしておりますので、本編内で紹介されるプロフィール情報のムラは、楯との関係性によるところが大きくなりまっす


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