199 __________ ‐3rd part‐
文字数 1,609文字
まぁ、実際に眩しいわけではないんだけれど、ミラノさんを見る目をオレは、なんとはなしに細めたりもしちゃっているし。
「……ホント、よくわかってるようで、わかってないねミラノさん。だから、それじゃオレがダメなんだって」
「ンン~ッ?」
「オレはね、きっとミラノさんがわかっているより、ミラノさんのことが好きなん──」
と! つい勢いで、ミラノさんにうら小っ恥かしいセリフを吐いちまったその刹那、開けっ放しだった襖越しに、有勅水さんがしたり顔を覗かせた。
スキップみたいな足どりで、ミラノさんの横へとやって来ちゃうぅ……。
「聞ぃ~ちゃった、聞いちゃったぁ。いいわねいいわねアオハルって。楯クンもいよいよ、本格的にお年頃ね~」
「モォ~、いきなり酔っぱらってるんですか? 建設現場の悩みが解消されたんだから、飲むのも絡むのも、いい加減にしてくださいよね」
「アラ? 二日ばかり顔を見ない内に、随分と言うよおになったわねぇ。駆けつけ一本の発泡酒くらいで酔っぱらいませ~ん、楯クンも早くおいでって言いに来ただけよ」
「……わかりました。もう少ししたら行きますから」
「それとこれ、ポールの見てない所でこっそり開けなさいね、またヘソを曲げられちゃうと困るから」
有勅水さんは後半、声と語気を抑え気味に言うと、白い封筒を差し出した。
オレは、まだ置けずにいる新聞紙の包丁とティッシュボックスを小脇に抱えなおして、それを受けとる。
……封筒はV&Mの物で、裏返して見ると、口が社印でしっかりと封緘 されていた。
「何ですこれって?」
「こまかい話は、また今度、お邪魔しちゃってるみたいだしぃ。だけど、一つ言わせてもらうとね水埜クン、口説く時にさん付けじゃぁブチ壊しよ。ミラノも可愛くないから、水埜楯はやめて、楯って呼びなさい楯って」
「エ~! そういうことは早く言う言うっ」
「ハイッ、それではお二人さん、アオハルの続きをおやりになってくださいな。働きづめで知らぬ間に白秋を迎えちゃいそおな私は、ホープフルなプロレタリアンどもと、お酒を飲みに消え去りますわね~」
「ン~、痛いんだよ唏ってばぁ」
有勅水さん、ミラノさんのほっぺたを二掴みして、また小躍りするようにしてLDへ戻って行った。
襖まで、拍子木っぽい音をたてて閉めるという、小ワザまで利かせて。
よくわからんけれど女神様、今夜は甚くゴキゲンらしい。
まぁ例の高塀が、先月末にスケジュールに支障なく撤去できてから、何か吹っきれたのか、それとも張りつめていた反動なのか?
いずれにせよ、一皮剥けたキャラと化しちゃってて……。
「えっと、何を話してましたっけ?」
「ウンッ。ワタシも意を決したんだよ。だから、楯が水埜楯ですって自己紹介したけど、今からは楯って呼ぶことにするする。だから楯も、ワタシを呼ぶ時はミラノでいいんだよ。話す必要なんかないないの」
「……うん、そうだよね。そもそもこんなトコじゃ何だし」
「じゃぁ楯、急いで三ラウンドお稽古して、みんなのトコに早く来るんだよ。封筒の中身も、意識をしっかりさせて見る見るぅ」
「うん、ガンバるガンバる。なんか、いろいろどうもありがとね」
ミラノさ──ミラノは、まるでゴングを鳴らすみたいにガラス戸を閉じ、襖も同じように開け閉めをしてLDへと戻って行ってしまった。
まぁ早くと言われても、一ラウンドは三分って決まってるんだけれど。
その前に、封筒の中身を、恐る恐る確認しておくとする──。
中に入っていたのは、V&Mからオレの銀行口座への振込通知、でも一瞬目を疑ってしまった!
すっかり忘れていたけれど、昆虫アクセのデザイン料として、ふり込まれた額にはカンマが二つ、なんと五〇〇万を超えていたっ。
あのボタンは限定だったけれど、アクセは売れ続けていたみたい……。
──これでもう田宮謡を、犯人たちを追うための条件は整ったと言えちまう。
肝心要の、オレ自身を除いては。
「……ホント、よくわかってるようで、わかってないねミラノさん。だから、それじゃオレがダメなんだって」
「ンン~ッ?」
「オレはね、きっとミラノさんがわかっているより、ミラノさんのことが好きなん──」
と! つい勢いで、ミラノさんにうら小っ恥かしいセリフを吐いちまったその刹那、開けっ放しだった襖越しに、有勅水さんがしたり顔を覗かせた。
スキップみたいな足どりで、ミラノさんの横へとやって来ちゃうぅ……。
「聞ぃ~ちゃった、聞いちゃったぁ。いいわねいいわねアオハルって。楯クンもいよいよ、本格的にお年頃ね~」
「モォ~、いきなり酔っぱらってるんですか? 建設現場の悩みが解消されたんだから、飲むのも絡むのも、いい加減にしてくださいよね」
「アラ? 二日ばかり顔を見ない内に、随分と言うよおになったわねぇ。駆けつけ一本の発泡酒くらいで酔っぱらいませ~ん、楯クンも早くおいでって言いに来ただけよ」
「……わかりました。もう少ししたら行きますから」
「それとこれ、ポールの見てない所でこっそり開けなさいね、またヘソを曲げられちゃうと困るから」
有勅水さんは後半、声と語気を抑え気味に言うと、白い封筒を差し出した。
オレは、まだ置けずにいる新聞紙の包丁とティッシュボックスを小脇に抱えなおして、それを受けとる。
……封筒はV&Mの物で、裏返して見ると、口が社印でしっかりと
「何ですこれって?」
「こまかい話は、また今度、お邪魔しちゃってるみたいだしぃ。だけど、一つ言わせてもらうとね水埜クン、口説く時にさん付けじゃぁブチ壊しよ。ミラノも可愛くないから、水埜楯はやめて、楯って呼びなさい楯って」
「エ~! そういうことは早く言う言うっ」
「ハイッ、それではお二人さん、アオハルの続きをおやりになってくださいな。働きづめで知らぬ間に白秋を迎えちゃいそおな私は、ホープフルなプロレタリアンどもと、お酒を飲みに消え去りますわね~」
「ン~、痛いんだよ唏ってばぁ」
有勅水さん、ミラノさんのほっぺたを二掴みして、また小躍りするようにしてLDへ戻って行った。
襖まで、拍子木っぽい音をたてて閉めるという、小ワザまで利かせて。
よくわからんけれど女神様、今夜は甚くゴキゲンらしい。
まぁ例の高塀が、先月末にスケジュールに支障なく撤去できてから、何か吹っきれたのか、それとも張りつめていた反動なのか?
いずれにせよ、一皮剥けたキャラと化しちゃってて……。
「えっと、何を話してましたっけ?」
「ウンッ。ワタシも意を決したんだよ。だから、楯が水埜楯ですって自己紹介したけど、今からは楯って呼ぶことにするする。だから楯も、ワタシを呼ぶ時はミラノでいいんだよ。話す必要なんかないないの」
「……うん、そうだよね。そもそもこんなトコじゃ何だし」
「じゃぁ楯、急いで三ラウンドお稽古して、みんなのトコに早く来るんだよ。封筒の中身も、意識をしっかりさせて見る見るぅ」
「うん、ガンバるガンバる。なんか、いろいろどうもありがとね」
ミラノさ──ミラノは、まるでゴングを鳴らすみたいにガラス戸を閉じ、襖も同じように開け閉めをしてLDへと戻って行ってしまった。
まぁ早くと言われても、一ラウンドは三分って決まってるんだけれど。
その前に、封筒の中身を、恐る恐る確認しておくとする──。
中に入っていたのは、V&Mからオレの銀行口座への振込通知、でも一瞬目を疑ってしまった!
すっかり忘れていたけれど、昆虫アクセのデザイン料として、ふり込まれた額にはカンマが二つ、なんと五〇〇万を超えていたっ。
あのボタンは限定だったけれど、アクセは売れ続けていたみたい……。
──これでもう田宮謡を、犯人たちを追うための条件は整ったと言えちまう。
肝心要の、オレ自身を除いては。